多様化するデータ社会が突きつける統計作成の課題

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統計の信頼性はあらゆる政策の基本であるが、一方で、「統計の作成がどんどん難しくなっている」という認識も、中央銀行を含め、各国で統計に関わる人々の間では広く共有されているように思う。

しかし、社会に放たれるデータの量は爆発的に増加し(下図)、GAFAやBATのような民間企業が巨大なデータの蓄積や利用を進めている「データ革命の時代」にあって、なぜ、従来からの統計を作ることの方は、年々難しくなっているのだろうか。

【世界のデータ量(赤)と1TBのデータの保管コスト(青、ドル)】
 
FSB ”Artificial intelligence and machine learning in financial services”(2017)より

一つの理由は、経済活動の複雑化・多様化にある。

物価統計を例にとってみよう。インフレ率を知るには、同じモノの今の価格と前年の価格を比べる必要がある。しかし、変化の激しいこの時代では、「去年と全く同じモノ」が売られている事例を探すことが、ますます難しくなっている。

もちろん、モノの品質変化を調整するための「品質調整」という手法もある。しかし、パソコンのように「画面のサイズ」や「メモリー容量」など定量的な調整の手がかりが多いものならまだしも、食品の「味」や「安全」、借家の「住み心地」など、品質調整が困難な要素も、財やサービスの多様化に伴ってますます増加している。さらに、技術革新の下、「一部のユーザーしか使わない機能」の品質向上をどう捉えるべきかといった問題も表面化している。

ビジネスの形態も多様化している。例えば、ネットショッピングでモノを買う人が増える中、価格の実勢を捉える上では、店頭価格だけでなく、ネット上の価格をフォローすることがますます求められている。一方で、ネットショッピングでの価格設定は往々にして店頭販売よりも複雑であり、「会員になればさらに安くします」といった値引きも多い。この場合、実際には企業が顧客のデータを買っているわけで、これを通常の値下げと同列に捉えてよいのかといった問題もある。

どうやってデータを集めるか

さらに、回答する側の制約という問題もある。

そもそも、専らネット上で商売をしているネット事業者に、統計の調査票を届けること自体簡単ではない。また、調査側は複雑化する経済活動の実態を把握するため、より詳細なデータが欲しい訳だが、そのために調査項目が増えれば回答側の負担も増えてしまう。この中で、「必要な情報が得られ、かつ、回答側がきちんと答えてくれるような調査票」を設計すること自体が難しくなっている。
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編集=フォーブスジャパン編集部

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