──すごくストイックに、自分の努力と向き合っているのですね。
心がけているのは、大きな市場でシェアを取れる理由があるところで努力をしないと報われないということ。既に需要が飽和している業界や職種、スキルでどれだけ頑張っても、その努力はなかなか報われづらいんです。
以前、自分の会社を売却しようとしたときに、当時はまだM&Aの知識が無かったので、買い手を探すプラットフォームや、相場を調べられるサービスはありませんでした。スーモなどのように、探してすぐに買い手とマッチングできるようなサービスがあったらいいのに、と。
結局、取引先にオフショアのアプリ開発事業を売却したのですが、ちょうど同時期、キュレーションメディアであるMERYがDeNAに30億くらいで買収されたタイミングでした。それは僕の会社の売却額の、約10倍の価格だった。「売上や利益はそこまで離れていないはずなのに、こんなに差がつくのか」って、ショックというか、自分を否定されたような気持ちになってしまって。
もちろん金額だけで価値は測れませんが、なるべく大きな成長市場で挑戦しないと、努力に対して正当に報われない感覚を抱きました。自分はそれなりに才能があって、それなりに努力ができ、環境にも恵まれた時代で育っているのに、努力するテーマを間違えると何も世の中に残せない人になってしまうと。
この経験から、「自分にしかできないこと」「やりたいこと」「課題と市場の大きさ」この3つのテーマが重なったM&Aを事業にすることに決めました。
──なるほど。しかし一方で、「好き」と「才能」って必ずしも一致しないですよね。例えば「自分は好きな領域で頑張っていきたいけど、この領域には天才がいるから勝てそうもない」とか。
「自分はどんなことに喜びを感じるのか?」を、抽象度を上げて自己分析することが大切だと思います。例えば僕の場合だと、「本当に格闘技がやりたいのか?」「本当に野球がやりたいのか?」といった競技の話ではなく、なんでもいいから「勝ちたい」という思いが強かった。
だから、「自分の才能が活かせる分野で、かつ課題が大きい、つまり市場が大きい場所で戦うこと」が、僕にとってやりたいことなんです。
──及川さんの、経営者としてのゴールはありますか?
やっぱり、歴史に名を残すくらい大きい会社にしたいですね。M&Aは、事業承継やベンチャー企業のイノベーション創出などに貢献できる事業なので、非常に社会的意義もあるし、マーケットも大きい。歴史に名を残せるフィールドを選べたと思っています。
分かりやすい目標として、今は「時価総額10兆企業」を掲げています。時代が求めるような大きい課題を解決したら、きっと時価総額に反映されるはずだし、その時代の課題を解決できる人が格好いいなって。
及川厚博◎ 1989年生まれ 札幌出身 2011年在学中にマクロパス株式会社を創業。シリコンバレーにリサーチ拠点と東南アジアの開発拠点でプロトタイプの開発を行う「新規事業開発の貿易ビジネス」を展開し、4年で年商数億円規模まで成長。別の事業に集中するため、2015年に同事業を数億円で事業譲渡。その際に、売却価格の算定と買い手探しのアナログな点に非常に苦労した。また、自分自身が事業承継問題の当事者であり、中小ベンチャーのM&Aに興味を持った。これらの課題をテクノロジーの力で解決したいという思いから、株式会社M&Aクラウドを設立。