北欧がもたらした男性管理職の「ダイバーシティ」の目覚め|DACホールディングス

総合広告代理店DACホールディングスの女性活躍推進には、ふたつの大きなカギがあった。ひとつは女性顧問の存在。もうひとつが、3年連続で訪問した北欧だ。


1980年代から進めた女性活躍推進の旗のもと、DACホールディングスの女性社員の比率は増え、課長に就く女性も増加していた。だが、肝心の部長以上は全管理職の6%止まり。そこで2009年、「37歳のシングルマザーで広告代理店の営業に転職し、50代で社長まで上りつめた」という経験を持つ太田みどりを顧問として招き、女性幹部候補を集めた年2回の女性管理職研修が始まった。
 
第1回から参加しているコミュニケーションデザイン本部の取締役部長・佐藤美由紀は、研修の成果は対話を重視したその内容にあるという。

「ひとりで抱えていたストレスや課題を共有できる仲間がいるんだと知り、解決に結びつけられるようになったんです。太田顧問の経験に基づく叱咤激励と具体的なアドバイスも大きい。昨年も重責に耐えかね退社を考えていた40歳の管理職が、研修で進むべき道を見つけてキラキラした目で帰っていきました」。
 
同じく研修に手応えを感じたグループ代表の石川和則は海外視察を打診、太田は北欧を勧める。1年目の12年は、女性のみ10人でフィンランド、デンマークなど3カ国を訪問。「北欧で働く方々の話を聞き、会社がすべきことは制度を決めることではなく、生産性も含めて自己管理のできる人を育成することだと気づかされました」(太田)
 
帰国後、視察の成果と今後の具体案を男性幹部にプレゼンしたが、「やればいいんじゃない?という感じで、協力的とは言えなかった」。そこで翌年は男性幹部にも同行してもらい、3カ国の厚生省や女性雇用促進組織、旅行会社や通信会社など計10カ所を視察。管理職や職員から仕事内容や制度の効果、女性リーダーを増やすための取り組みなどを聞いた。

「夜の会食のとき、ある男性幹部が言ったんです。本当に申し訳なかった、女性活躍推進を止めていたのは僕だった、って」と太田は当時を振り返る。ノルウェーの船舶会社支社長が言った「女性の活躍推進は会社全体の生産性を高め、成長を促す」に大いに納得した男性幹部は、帰国後の男性教育を約束した。
 
一方の佐藤も北欧視察で何度も聞いた「自分の成長に責任を持つ」という言葉を胸に、人事部と次世代の女性幹部候補育成のための研修プログラム「DAC Women’s College」を立ち上げた。
 
その頑張りは、2015年度東京都女性活躍推進大賞受賞という形で報われる。佐藤曰く「受賞という結果が出たことで、男性幹部がさらに真剣に考えてくれるようになった」そうだ。実際、女性の雇用・定着の推移と比例し、北欧視察の12年から18年までの7年間で売上高は30%も増加している。

「北欧の女性が自立しているのは扶養家族制度がないから。日本も早くなくせばいいのにな」。インタビュー終了間際、自立心を促すための太田の過激な発言に場が沸いた。

文=堀 香織 写真=野村恵子

この記事は 「Forbes JAPAN 世界を変えるデザイナー39」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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