モノより「プロセス」、まちのものづくり屋さんの挑戦

茨城県の木内酒造でできる「手作りビール体験」


また、このような体験はいわゆる形に残る“モノ”に限った話ではない。茨城県にある木内酒造では、地ビールブームに影響を受け、2000年から「手造りビール工房」をはじめた。当時は日本でビールが作れる施設は初の試みで、話題性や目新しさを狙ったという。

ビアスタイル、アルコール度数、苦味などのフレーバーなどすべて相談ができ、ラベルの持込も可能である。徹底してオリジナルながらも、本格にこだわり、市販同様の品質を追求するという点は、靴づくりと一緒だ。

最低15L〜ということもあり、ビール好きな夫婦が結婚式で配ったり、なにかの周年イベントでふるまったり、と記念日に作る人が多いという。驚くのは、アレンジの幅だ。お米や果物などの副材料を持ち込み、よりオリジナリティの強いものにすることもできる。



木内酒造の萩谷さんは、「ただビールを買うのに、都心から茨城県まできてもらうのは難しい。体験は、店舗へ足を運んでもらうきっかけになる。そこでビール製造プロセスを理解もらうことで、より美味しさやこだわりを感じてもらえる」と言う。手作りビールの最初の一杯は、想像するだけでも感動ひとしおだ。

プロセスの共有のメリット

体験者の視点で考えると、唯一無二の世界に一つだけの商品が作れる点、自分好みにアレンジできる点は魅力的だ。そうして出来上がったものはもちろんだが、作るということでプロセスを知り、そのモノに対する愛着が増し、長くそして大切にしようという思いが芽生えるのも大きな価値であるように思う。

一方の事業者からすると、体験は訪問や購入のきっかけにすることができる。ただ販売するだけに比べ、会話する時間も長く、内容も濃くなるため、店やブランドのストーリーやこだわりを十分に伝えることもでき、ファンにすることもできるだろう。

ここで紹介した以外にも、ちょっと考えただけで、ハンドメイドの可能性は無限にある。精油メーカーでオリジナルの香りを作る調香体験、焼酎蔵でのマイ焼酎作り、珈琲豆の卸屋が提供する焙煎体験など……嗜好性が高いカテゴリであるほど引きのあるコンテンツになりそうだ。

大量生産・大量消費を極める今だからこそ、街の小さなメーカーや小売には、大手にはない差別化や付加価値がより一層求められる。そのひとつの手段として「世界に一つだけ」をつくる体験は、消費者・事業者にWIN-WINの関係を築く大きな可能性を秘めている。

連載:「遊び」で変わる地域とくらし
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文=フォーブスジャパン編集部

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