がんと闘う子どもたちに届く「バレンタインチョコ募金」 パッケージ缶に秘められた物語

2019年は「戦場のたんぽぽ」がテーマ(写真=ジムネット)


15歳で亡くなった少女サブリーンが最期に残した言葉

言葉が通じない国で、心を閉ざしがちな病気の子たちと関係を築くのに、絵がコミュニケーションツールになったそうです。佐藤さんには、たくさんの子どもたちとの出会いがあります。助からなかったけれど絵を描くことで最期まで希望を持ち続けられた子、回復して引きこもりから抜け出し、病院で親子のサポートに取り組む子もいます。

最初の缶の絵を描いたサブリーンとは、南部の都市・バスラの病院に現地スタッフを派遣するようになり出会いました。11歳でがんになり、右目を摘出して再発を繰り返し、イランで放射線治療を受ける支援もしました。貧しくて、幸せとは言えない家庭でした。

サブリーンの絵をチョコレートの紙パッケージに使ったとき、1000万円の募金が集まり、サブリーンがいる病院の薬代1年分になりました。自分の病気は治らなくても、多くの子どもが助かると知り、辛い治療に耐えて絵を描き続けました。

「サブリーンは人生の最期に『自分は幸せだ』と言っていました。できあがった缶を手にすることはなく15歳で亡くなりました。病気は仕方ない部分があるけれど、情報やお金があればもっと早く治療できたのにと思います。支援のきっかけを作ってくれたサブリーンを忘れられません」(佐藤さん)


骨髄移植を受けた少年。チョコレート缶を手に嬉しそう


2019年、チョコ募金のテーマは「戦場のたんぽぽ」

活動は広がり、2017年にジムネットは事務所を置くイラク北部のアルビルにある病院近くでケアハウスを始めました。それまで患者の家族は庭や廊下で寝ていたのが、部屋で寝られるようになりました。

チョコレート募金は、病院の薬代や、こうしたケアハウスの運営に使われます。抗がん剤や輸血のための消耗品を届け、医師や看護師の研修を手がけます。院内学級を支援し、通院の交通費や薬代・治療費の一部を補助。そのほか、イラクに来ているシリアの難民キャンプの母子支援・ヨルダンにいる障害者の支援、震災後の福島の子どもを放射能から守る活動にもあてられます。

作詞家・湯川れい子さんや歌手・神野美伽さんは「バレンタインにはジムネットのチョコを贈る」と発信し、空き缶はがんの患者さんにも愛用されています。

2019年、チョコ募金のテーマは「戦場のたんぽぽ」。がんの子どもたちが描いた個性豊かなたんぽぽが缶にプリントされています。イスラム国が去った後、小児がん病院は焼け焦げ、がれきがあるだけでした。でも、庭にたんぽぽが咲いていたそうです。

たくましく咲き、種をあちこちに運ぶたんぽぽ。缶の絵には、生命力があふれています。

文=なかのかおり 写真=ジムネット

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