現地の訪日旅行を専門とした旅行会社は、旅行企画がすべてキャンセルとなり、会社の運営も危機的状況を呈していた。タイ航空の当時の社長との面談の中では、「それでも、僕らは毎日、日本に空席だらけの航空機を飛ばしているんだよ」という言葉も出た。
苦悩しているのは日本人だけだと思っていたのは大きな間違いで、各国からその国の人々を「運んでくれる」さまざまな人々もまた窮地に陥っていることに、恥ずかしながらそのときはじめて気づいたのだった。
あの手この手で「安全」アピール
そこで、「岐阜を旅して日本を元気にキャンペーン」という、岐阜県を旅すると宿泊費などから数%を東北復興への寄附にまわすという観光キャンペーンを、国内の人々はもとより海外に向けても行う決心をした。今思うと、当たり前のことをしただけなのだが、あの頃は、こんなキャンペーンを大々的に発信したら、国内のメディアや被災地から袋だたきにあうかも、と本気で思ってもいた。
そんななか、宮城県知事の「被災地のことを考えて日本中が自粛するのではなく、日本の元気や復興をどんどんアピールしてほしい」との発言を機に、自粛ムードだった日本の雰囲気が、まるで桜が一斉に開花するかのように一変し、私の不安も一蹴された。
さらにインバウンド対策では、各国の人々の「日本に行ってきたけど、大丈夫だった」という言葉を現地で広めることがいちばんの風評被害対策になるとの考えで、各国の影響力のある人々をどんどん岐阜県に招請することとした。
タイ航空とのコラボレーション企画を皮切りに、シンガポールの訪日旅行会社には現地目線でのメディア招請による日本の安全アピール事業を委託し、少なからず会社の倒産回避に役立てていただいた。
欧州への対策としては、知事が親しくしていた駐日フランス大使を招き、知事自らが案内をして県内を旅する様子を、駐日フランス大使館のHPで、フランス語で発信していただいた。台湾や香港の旅行社にも職員が直接アプローチをして招請事業を実現し、その結果、台湾からの団体客がいち早く岐阜を訪問してくれたときは、深夜のホテル到着だったが、職員とともに出迎えをして、涙が出る程嬉しかった。
内的風評による経済的損失
メディアには、当然ながら、PRに有効な面と、風評被害はもとよりフェイクニュースなども含めネガティブな一面もある。国際観光都市として名高く、ブランド力最強のパリでも、今回、ともすると街中で暴動がおきているかのような風評被害がもたらされ、その影響を受けている。
一方で、もしかしたらパリは静か、と感じたこと自体も、私の思い込みかもしれなかったと今は思う。パリに到着したその夜、食事に行こうと1人で歩きはじめた霙まじりの街角で、いつもなら感じないのに、もしここで暴漢に襲われたらとの思いがふと頭をよぎり、ホテルに引き返した自分がいた。
私の中の勝手な内的風評が、あらぬ恐怖をつくりあげ、現地にお金を落とす機会を逃したのだ。私が落とすお金なんて些細なものだけれど、こういう人が一晩で何百人、何千人といたとしたら、その損失金額はどれ程だろうか。