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理由はこうだ。金融市場の圧力が増大すると、企業は短期間の利益を追求する短期志向になりがちだ。次の四半期で利益が生み出せないからと、コスト削減のために人員削減が起きる。目先の利益を追い求め、内在的モチベーションを高めるような仕事はできなくなり、従業員と経営者の信頼関係も失われる。

「従業員と経営者、そして企業がお互いを信頼してはじめて、内在的モチベーションは高まります。内在的モチベーションによって、企業の利益に向かって、喜んで働くことができます」

組織内の格差が大きくなりすぎると、社内に確執が生まれ、内在的モチベーションが削がれることもある。「組織で1人だけ100倍以上ももらっている人がいたら、従業員はどうやってその人に共感を持つことができるでしょうか? 信頼関係はできず、組織に破壊的な影響を与えるでしょう」。

システムへの信頼と戦う力

経済システムを守るために、何が必要なのか。デ・グラウウェの出した答えは「強い政府」だ。

前述した航空機の例だが、21年から日本を含む世界各国で国際線の航空機のCO2排出量規制が始まる。国際民間航空機関(ICAO)の総会で各国が枠組みに同意して実現した。20年の実績を超える場合に航空会社は排出枠購入が課せられるようになり、低炭素化に取り組む会社が増えた。

また、貧富の格差解消には、税率引き上げに対するさまざまな政治的な圧力に負けず、富裕層にも課税を断行し、必要な社会保障政策を実現できる強い政府が必要だ。国民に信頼され、支持される民主的で強い政府だ。格差が拡大すると、既存のシステムは信頼を失い、人々は権威主義的なポピュリズムの政治を求めるようになる。

「多くの人々はシステムがフェアではないと感じています。どんなシステムも社会的なコンセンサスが必要です。資本主義が生き残るには、多くの人々がこのシステムはフェアで、全ての人にチャンスを与えてくれるいいシステムだ、と認識しないといけない。格差拡大を止めることは、倫理的に正しいだけではなく、資本主義の未来のために必要なのです」

政府の介入に反対する意見もあるが、デ・グラウウェの視点はその先にある。

「真のゴールは人類の繁栄で、市場も政府もそれを達成するための手段にすぎません。市場はいいものでも悪いものでもなく、純粋な市場だけで動く経済システムはありえません」

13年、発言の自由を推進した者に贈られる「Ark Prize of Free Speech」を受賞したデ・グラウウェ。今も新著を執筆中で、70歳を超えて活発に発言を続けている。その活力の源は何か。

「私はもともと楽観的な性格ですが、周りを見ると絶望的な気持ちになります。しかし、発言を止めてはいけない。私は絶望と戦います」


ポール・デ・グラウェ◎1946年、ベルギー生まれ。74年に米ジョンズ・ホプキンズ大学で博士号を取得。ベルギーのルーヴェン大学の名誉教授で、91年から2003年までベルギー連邦議会の議員を務めた。米国と欧州の複数の大学で客員教授として教鞭を執り、ザンクトガレン大学、トゥルク大学、ジェノヴァ大学の名誉博士。客員研究員として国際通貨基金(IMF)や連邦準備制度理事会や日銀にも在籍。ルーヴェン大学を定年退職後、12年から現職。

文=成相通子 写真=帆足宗弘

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