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問題は2つに大別できる。

一つ目は外部コスト。外部コストとは、市場取引の外部に置かれている、経済活動の(悪・好)影響だ。代表的な例として環境があげられる。市場経済では製品やサービスの価格は需要と供給のバランスで決まる。よって、例えば、その製品を生産する際、どれほど環境に負荷をかけたのかは、その価格には考慮されていないケースがほとんどだ。

例えば航空券。東京-ロンドン間なら、季節によっては往復10万円以下もある。LCC(格安航空会社)の登場で割安な航空券が増え、世界の旅客数も右肩上がりだ。国際航空運送協会(IATA)によると、17年は40億人を突破。今後20年で2倍近くになる見込みだ。増え続ける旅客の航空券代金には、ジェット航空機が排出したCO2が与える地球温暖化への影響はほとんど反映されていない。

「『飛行機のコスト』というのは、我々が払っている航空券の値段よりももっと高いのです。しかし、我々はそれを払っていないし、払っていないことを当然だと思っています」

二つ目は、市場経済が生み出す格差の問題だ。デ・グラウウェは市場経済を否定しているわけではない。「市場経済は素晴らしい仕組みです。物質的な繁栄がもたらされ、人々は豊かになりました。競争によってより良い質のものが、より低価格でより多くの人の手に入るようになったのです。しかし、近年では競争の結果、ほんの一部の人々にあまりに莫大な富が集まっています」。

18年11月19日、カルロス・ゴーン日産自動車前会長の突然の逮捕劇に世界が騒然となった。容疑は、金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)で、自らの役員報酬を過少に記載していた疑いが持たれている。その額は毎年10億円、計約50億円に上る。

報道では過少記載だけでなく投資損失の日産への転嫁や、海外の高級住宅購入費など私的目的での経費使用に対する批判も相次いだ。しかし、10億〜20億円とされるゴーン氏の報酬については、他のグローバル企業と比較して決して高い金額ではない。

優れたリーダーは正当な対価を得てしかるべきだ。では、正当な対価とはいくらだろうか。米Economic Policy Instituteの2017年のレポートによれば、米トップ企業350社のCEOの役員報酬は平均で1560万ドル(約17億円)。労働者の平均所得を5万8000ドルとすると約271倍にもなる。

さらに、特筆すべきはその増え方にある。1978年から2016年の間にCEOたちの役員報酬はインフレ率を勘案しても937%も増加した。対して労働者の報酬は11.2%しか増えていない。

レポートは、CEOの報酬が増えたのは彼らの生産性や才能が(1000倍近くも!)向上したからではなく、自ら報酬額を決められる権力によるものだと結論づけている。

CEOだけではない。貧富の格差は加速度的に広がっている。デ・グラウウェは、このような圧倒的な格差が経済システムを危機に追いやっていると話す。「格差が広がれば、人々はシステムを批判するようになります。政治的な反動が起き、経済システムを支える民主主義が脅かされるでしょう」。

内在的・外在的モチベーション

現代の格差拡大には、企業のマネジメントにも悪影響を与えているという。労働者の内在的モチベーションが鍵だ。

「一般的に、いいビジネスパーソンは内在的なモチベーションの重要性を知っています。外在的モチベーションだけでは、優秀な人材を集められても長続きできません」

人々の動機には内在的モチベーションと外在的モチベーションの2つがある。内在的モチベーションは仕事そのものに達成感ややりがいを感じていること。外在的モチベーションは金銭を得ることが動機になっていることだ。

「金銭はもちろん重要ですが、人々のパフォーマンスを真に高めるのは人生に喜びと満足感を与える内在的モチベーションです。従業員の内在的モチベーションを高めることは、企業の繁栄の秘訣です。その内在的モチベーションを金融市場の強大な力が脅かしています」

文=成相通子 写真=帆足宗弘

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