同社の沿革は、100円ライター大手「東海」の創業者新田富夫と岡本との偶然の出会いに遡る。
1984年にNECを依願退職したばかりの岡本が、横浜市内の寿司屋でたまたま隣に座った新田に誘われ、東海の関連会社「東海技研」に入社。91年に新田が「リオン」の子会社を譲受したのがきっかけで、岡本が代表取締役に就任した。親会社の倒産や撤退、社名変更などを経て現在に至る。
圧電センサの技術でIoT社会に対応しながらも、今でも社是「食文化に不可欠な炎」をベースに国内で唯一、ガス圧電点火栓を手掛ける。96年から圧電点火栓の生産ラインを中国の協力会社に移し、技術指導をして国内向けに販売している。
セラテックエンジニアリング代表取締役社長 岡本正昭
岡本は、経営哲学として意外な言葉を放った。
「ミレーの落ち穂拾いが俺の哲学」。
意味するところは2点ある。まず、大手企業が打ち切ったニッチな市場の要望を拾い集めて「用途開発」に注力すること。もうひとつは、あらゆる振動をエネルギーに変える「エネルギーハーベスティング」の考えだ。
「大手は先読みできない開発を不採算部門として切り捨ててしまう」と明かし、多品種少量品の生産を積極的に受け入れる。社員には「間違っても発明はするなと言っている。我々がするのは、大手が撤退した商品の供給責任を果たし、技術の応用方法を『見える化』するところまで。あとは皆さんで磨いてくださいというスタンス」と説く。
応用例は宇宙にまで広がりそうだ。JAXAの研究者が、同社の圧電技術を使った「超音波モーター」に関心を寄せているという。電源がなくても動力となり、電磁波を生まないため宇宙空間での作業補助に活用できる可能性がある。
時代の流れを読み解く事業展開の秘訣は何か。岡本は「そうではないんです」と前置きしてこう答えた。「うちは部品メーカーで材料は古くから変わっていない。でも省エネ、軽薄短小の時代になり、10年前には相手にされなかった圧電技術をお役に立てる時が来た」。