「事業拡大」と「組織拡大」で求められるスキルの違い
下平:なるほど。投資する側から投資される起業家側になってみて、初めて感じられたことも多かったのではないでしょうか?
後藤:そうですね。投資家だった頃は「プロダクト」や「KPI」といったものが多く見えていたのに対し、実際に起業家になってみると、対人コミュニケーションなど「ヒト」としての能力が問われる仕事が全体の8割以上を占めていました。
例えば、どのベンチャー企業にも組織拡大時の課題として「30人の壁」や「100人の壁」があると言われますよね。投資家だった頃の私はその話を聞いて、起業して事業拡大していけば、自動的に組織も大きくなっていくものだと勘違いしていました。
でも実際には、「事業拡大」と「組織拡大」はまったく別のスキル。初期の事業拡大は市場成長やプロダクトの優位性に紐づきますが、組織拡大は経営者の器に紐づきます。経営者の人としての器がボトルネックになるのです。ですので、起業前と比べて、より「人間性」の重要性を痛感しています。
下平:起業家としての「人間性」をどのように磨こうとされていますか?
後藤:まだ私も答えがわかっていない中ではありますが、一つ言えることは「結果を出し続けること」。結果が信頼を生むし、尊敬にもつながると思っています。
わかりやすい例でいうと、資金調達においても言葉だけではなくプロトタイプを作っていると、投資家の信頼を得やすいですよね。
ではその結果をどうやって作るかというと、創業初期は社長自身がいろんなところに「突撃」して実績を積み上げるしかありません。そこにブレない「ビジョン」があれば、自ずと尊敬される「人間性」も身についてくるのではないでしょうか。
下平:なるほど。「人間性」を高めるために、起業家の素養として挙げられた「実行力」や「ビジョン力」が必要となるのですね。とはいえ、「鶏が先か、卵が先か」の関係のように、最初に結果を出す上でも「人間性」は求められるのではないでしょうか?
後藤:おっしゃる通り、そこが難しいところです。なので、今できることとして常に意識しているのは「尊敬する起業家だったらどう判断・行動するか」という客観的な視点を持つこと。例えば創業時に出資してくださった起業家の皆さんや、尊敬する方々の意識を徹底的にトレースするようにしています。そのために、超地道な方法ですが、尊敬する人のツイッターのツイートや「いいね」は全てチェックしています。(笑)
価値観を明確な打ち手に昇華させる「ビジョン力」
下平:3つ目の素養である「優勝力=ビジョン力」が身についたきっかけをお聞かせください。
後藤:これは再現性が無いかもしれませんが、子供の頃に受けた教育の影響が大きいと思っています。
私の父は消防士で母は看護師。共通して「人助け」をする職業だったため、小学生の頃の夢は医者か弁護士か消防士でした。中高で英語を学ぶうちに、その思いが「英語×人助け」へと転じて、国連で働きたいと思うようになります。その流れで大学では国際協力や海外ボランティアを経験したのですが、途上国に井戸を一個作るよりも、起業家か投資家になって事業を作ったほうがインパクトは大きいと感じるようになりました。
下平:「人助け」を軸に、打ち手が変化してきたのですね。
後藤:はい。お金に対する価値観も、私の大学での原体験が根底にあります。
私はサークルを続ける資金稼ぎのためにバイトをしていたのですが、サークルのメンバーの中には働いていないのに自由に時間・お金を使える人がいました。そんな大学生程度の機会損失であれば、手元の3万円や5万円でも解決できることが多いはずです。「バイト代が早くもらえる」方法があれば随分と助かるし、そもそも給与は働いた翌月末に一括払いされる画一的な世界観自体が不自然なんじゃないかなと感じました。
そんな原体験が、ペイミーのビジョンである「資金の偏りによる機会損失のない世界を創造する」につながっています。
誰もが人生の軸となる価値観や原体験を持っているはずです。それをただぼんやりと考えるのではなく、明確な打ち手・ビジョンにまで昇華させられるかどうかが、起業家には必要な力だと思います。
連載 : 起業家たちの「頭の中」
過去記事はこちら>>