しかし10年以上の成長の果てに、2009年の景気後退で同社の業績は下向きとなり、株価は12ドルと、2年前から75%も下落した。当時のオートデスクは、幅広い分野への研究開発に大金を投じていたが、AutoCADに比肩するほどの大ヒットを生み出すまでには至っていなかった。
さらにクラウドコンピューティングがソフトウェア業界に激震をもたらしていた。オートデスクはサブスクリプション方式に舵を切ったが、売り方だけではなく、新しい製品も求められていた。
そこでアナグノストが着目したのが建設業界だった。彼は市場を絞り込むことで、オートデスクにいまいちど大きな目標を抱かせようとしている。「我々は顧客よりもはるかに素早く動き回る、イノベーション創出集団なのだ」と彼は語る。もっとも、オートデスクがここ数年建設業者向けに開発を続けているAIソフト「BIM 360 Project IQ」などは、そうした形容とはかけ離れた重厚な製品である。10年間に及ぶ顧客データと3900万件の顧客が抱える問題(水害など)を活用することで、建設現場で緊急の対応が必要な問題点を予測する。
「建設の産業化を進める企業へとオートデスクを育てるのが私の望みだ」とアナグノストは言う。それに続けて、3Dプリンターを利用した工場、自動運転のクルマが行き交う社会での都市デザインなどの未来語りをひとしきり披露した。「それは決してSF作品の中だけにある絵空事ではない」。
アンドリュー・アナグノスト◎NASA、ロッキード・マーティン社、エクサ・コーポレーションなどを経て1997年にオートデスク入社。2017年CEOになる前はCMOとしてビジネス戦略を担当。同社をSaaS企業へビジネスモデル転換する指揮を執った。