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その状況を変えたのが、元フィナンシャル・タイムズのジャーナリストで15年に大学・科学担当大臣に就いたジョー・ジョンソンだった。高等教育に参入するための壁が高く、教育業界に新しいプレイヤーが現れないことに問題意識をもっていたジョンソンは、より幅広いプレイヤーが教育を提供できるようにするための法案「高等教育および研究法」を提案し、議会に通した人物だ。

そして16年3月、ダイソンが歴代の大臣たちにしてきたようにジョンソンのもとへエンジニア不足について話をしに行くと、彼は逆に、ダイソンに対してこう提案したのだった──「では、ご自身で新しい大学を始めてみませんか?」

「それまでは自分で大学をつくるなんて考えたこともなかった。でも、解決したい問題に自らの手で取り組むのはいいアイデアに思えたし、ジョンソンの話を聞いた瞬間、それこそが私たちがすべきことのように思ったんだ」とダイソンは言う。

「10秒もしないうちに、私は『イエス』と答えていた」

ジョンソンの提案からわずか18カ月後の17年9月、新法案に基づく最初の大学としてDyson Instituteは開校。33人の1期生がマームズベリーのキャンパスを訪れることになった。

「Dyson Instituteは、既存の大学に対する本物の、そして魅力的なオルタナティブです」。ジョンソンはダイソンの社内報『on:』のなかでそう語っている。「この学校をきっかけに、高等教育における新たなアプローチが切り開かれることになるでしょう。もっと多様で、質が高く、柔軟でコストのかからない教育の選択肢があることを示せるのです」

「教育は、常に自分の人生の一部だった」

18年秋に2期生を迎えたDyson Instituteでは現在、76人の未来のエンジニアたちが学んでいる。


2018年9月に入学した、43人の第2期生。女子学生が40%を占める。

この学校が既存の大学と異なる点は、大きく2つある。ひとつは、働きながら学ぶこと。生徒たちは学期中は週に3日、学期外には週に5日をダイソンのエンジニアチームに混じって実際のプロジェクトに費やしている。

そしてもうひとつは、生徒たちには年間15500ポンド(約225万円)の給与が払われること。厳しい選考過程を経て入学した生徒たちは、実質的に学費を一切負担することなく工学学士を取得できるというわけだ。カリキュラムではデザインとエンジニアリングの両方を学ぶことはもちろん、ソフトウェアからハードウェア、電子工学や機械工学といった幅広い知識を身につけられるのが特徴だ。


19年春に完成予定の「クラブハウス」。学生とダイソンの従業員たちが、図書館、カフェ、映写室などを利用できる施設になる。近くにはジムと多目的競技場を備えたスポーツセンターも建設中。

そして4年間のプログラムを終えると、生徒たちはダイソンに入社する機会を得ることになる(入社は必須ではない)。

文=宮本裕人 写真=クリス・グローグ

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