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2019.01.29

廃墟を観光資源に 財政破綻したデトロイトの新たな魅力

2018年に「デトロイト暴動」を題材にした映画が日本で公開され、この街に再び注目が集まっている



住宅街の入り口には、ドラッグを使用しないよう注意喚起する看板が設置されていた

滞在先のホストは、ニューヨークで経営していたカフェをたたんで移住してきたという、白人芸術家だった。初老で、立派な白髭をたくわえている。市内での移動手段を尋ねると、「うちにある自転車を使っていいよ」。さすがに危ないでしょう、と言うと、大笑いされた。「治安が悪いのは昔の話。今は深夜でない限り問題ないと思うよ」。


通りに面した住宅のほとんどが廃墟というエリアもあった

彼を信じ、ひたすら自転車で移動した。確かに、一度も危ない目にあうことはなかった。ただ、あるナイトクラブだけはどうしても入ることができなかった。廃墟に囲まれており、夜のイベントは明らかに危険だと感じたからだ。「デトロイトテクノ」を好んで聴く筆者だったが、さすがに諦めた。

そのほかにも、夜間は危険だと推察される場所は、いくつかあった。「治安は改善されている」と言い切っていいものか、多少の疑問は残る。


閉鎖した自動車関連工場が保存されている

滞在中は、芸術家のホストに観光プランを練ってもらい、それに沿って動いた。ある日本語のWEBサイトで、「デトロイトはこれだけ廃れている」として紹介されていた廃墟の写真。訪れてみると、なんのことはない。閉鎖した自動車関連工場を保存した施設だったのだ。

いわゆる「産業遺産」とも呼べるこの施設。建物の老朽化は進み、内部は何者かによってスプレーでグラフィティが描かれていた。一見、物騒だが、周囲は警備員が巡回しており、写真撮影に没頭できた。


工場だった建物をのぞくと、奥にグラフィティが見えた

続いて訪れたのが、廃墟をアートで彩ったスポットだ。かわいらしい水玉模様の家があるかと思えば、上半身だけの人形があったりと、前衛的なアートが通りを埋め尽くす。地元アーティストが1986年に立ち上げたプロジェクトといい、使われなくなったおもちゃや廃材などを使用。廃墟と相まって独特の景観を生み出していた。通りには、観光客の姿も目立ち、観光スポットとして機能していることが伺えた。


水玉模様のアートが描かれた家屋。この通りの象徴的な建物だ

この通りに到着してすぐ、自転車でスタッフ風の黒人男性が近づいてきた。「ここは5ドルです」と言うので紙幣を手渡すと、通りとは逆方向に逃げていった。なんとたくましい。念のため記しておくが、この通りに「入場料」は必要ない。


上半身だけの人形がパイプに刺さっていた。中には少し不気味なアートも展示されている

アートスポットの帰り道、新築中の家屋を目にした。滞在先のホストによると、最近では景気が多少は上向いており、不動産の極端な安さから、若い世代を中心とした流入もあるようだ。

この街が完全復活を遂げる日は来るのだろうか。その時には、保存された廃墟群が「世界遺産」に認定され、世界中から大勢の観光客が訪れるだろう。そんな姿を想像しつつ、デトロイトを後にした。


DETROIT in a DREAM from Shinji Tanaka on Vimeo.




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文・写真=田中森士

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