財政破綻前から、治安は悪化の一途をたどり、税収の落ち込みにより市民サービスも低下していた。財政破綻時には、通報から警察が現場に到着するまで、1時間近くかかっていたということからも、その混乱ぶりがよく分かる。
破綻した都市はその後どうなるのか。現地で空気を確かめたい。そう思い、デトロイト行きを計画した。インターネット上には、今にも崩れ落ちそうな廃墟の写真が出回っている。「今度デトロイトを見に行ってくるんだ」。そう言うと、日本や米国の友人は「治安が悪いらしいね。気をつけて」と念を押した。
2017年9月に訪れたデトロイトは、イメージと違った。市中心部では、若い白人女性が1人で平然と歩いているし、ベーカリーに併設された、コンクリートむき出しのスタイリッシュなカフェでも、20代とおぼしき若者らがリラックスしてコーヒーとクロワッサンを味わっている。平和だった。
NFLチーム・ライオンズの試合会場は、終始興奮に包まれていた
デトロイトが本拠地のNFLチーム・ライオンズの試合会場に足を運んだ。厳しいセキュリティーチェックを抜けてスタジアムの中に入ると、観客の熱気が伝わってくる。スタジアムは、試合開始後、ほどなくして満席となった。1967年の暴動などで白人が郊外へと離れた結果、黒人比率は8割に達したはずだが、スタジアムは対照的に白人の割合が8割以上を占めていた。
チームが得点し、隣の観客らとハイタッチをした後、座席に腰を下ろす。すると、後ろから声をかけられた。人の良さそうな白人男性が、「俺は自動車産業で働いているんだ。お前はニッサンの社員か」と質問している。「違う、マーケターだ」と言うと、「いい職業だな」とつぶやき、一瞬悲しそうな顔を見せた。
それに対し「君も素晴らしい仕事に就いているじゃないか」と言うも、無言で首を横に振るばかり。新興の自動車メーカーが爆発的に増加する中、将来を悲観しているのだろうか。スタジアムは終始、興奮に包まれていたが、観客らとの会話の中に、閉塞感も感じた。
タクシーの運転席と後部座席との間には、頑丈そうなパネルが取り付けられていた(画像の一部を加工)
今回、滞在先はホテルではなく、あえてAirbnbで民家を探した。地元民の声を聞きたかったからだ。比較的郊外にあったため、タクシーで向かう。道中、多数の廃墟が目に飛び込んできた。街の雰囲気は、良いとは言えない。タクシーの運転手によると、土地建物付きで2ドルの物件が山ほどあるのだという。やはり治安は悪いのだろうか。心の奥に、一抹の不安を感じる。