「スモール・ジャイアンツ アワード2019」のトークセッションで会場がもっとも関心を寄せたのが、斎藤隆が語った「ピンチの乗り越え方」だろう。時代の変化に左右されやすい小規模の企業の多くが、存続の危機を体験している。
一方、斎藤隆はドジャース入団1年目にチーム最多の72試合に登板。防御率2.07、リリーフ投手としては両リーグ最多の107奪三振、同じくリーグ1位のWHIP0.91という記録を残し、地区優勝に貢献した。だが、彼が登板するのは、ここで打たれたら逆転サヨナラ負けというピンチのシーンが多い。ピンチを克服する「考え方」を、斎藤が披露する。
「2006年、マイナー契約からスタートしたオープン戦でのことです。僕は新人だけど、36歳。つまり、崖っぷちからのスタートです。年齢的に、メジャーに昇格できるのは非常に厳しい。それなのに大事なオープン戦でホームランを打たれてました。不運にも風に流されて外野スタンドに入ってしまったのです。
マウンドを降りると、エディ・マレーという黒人の打撃コーチが歩み寄ってきました。彼は3000本安打・500本塁打で野球殿堂入りをした往年の名選手です。そんな彼が僕にこう質問するんです。
『お前は、野球が楽しいか?』
カチンときましたよ(笑)。僕は必死にもがいているのに、『楽しんでいるか』って、どういうこと? 不謹慎じゃないかって。でも、マレーは『野球を楽しまないで、ここで何をするんだ?』とまで言うんです。
僕はこう言い返したかった。楽しむなんてそんなの無理だ、俺は日本に家族を置いて、明日クビになるかもしれないところで必死にやってるんだ、と。でも、なかなか英語で伝えることができず、『いや、それはできてないと思う』みたいなことをワーッと話をしました。
でも、マレーはこう言うんですね。“Enjoy Baseball”って。
その後、楽しむって何だろうなと考えるようになりました。この言葉の意味は、メジャーに昇格して、クローザーを任されるようになってから徐々に体で理解していきました。
肩の調子が悪いとき、あるいは緊張の場面ほど、「こうなりたい自分」を追い求めてしまいますが、それはけっして楽しむことではないと、気づいたのです。
年齢的にも全盛期のスピードや体力はありませんが「メタ認知」というんでしょうか、客観的に自分を見て、自分に対する評価を明確にすると、“できない自分”がわかります。できない部分を知るということは、つまり、逆に“できること”を知ることなんです。
足りない自分、できる自分が見えることで、だったらどう組み立てようかという考えが生まれる。若い頃はがむしゃらですが、見えてくると、何をしたらいいか、楽しめてくるのです。