──パナソニックのような大企業で変革を起こすのは難しいですか?
とても難しいですね。重要なのは粘り強さです。ちょっとした例を紹介します。
企業文化の変化を示すため、名刺を変えようとしたときのことです。パナソニックの名刺のデザインは約35年間同じままでした。私は、新しい名刺では、まず個人名を大きく、そして企業名を小さく続けるべきだと考えました。それまでと逆のデザインです。
実は、日本の名刺はどこの会社でもほぼ同じで、使う色は2色のみ、特別なデザインはなく、均一で目立たないように作られています。でも私たちは、各従業員により重要性を持たせ、認識を変えるために名刺を活用したいと思いました。
ところが、この変更には様々なチャレンジがあり、私は名刺のデザインや印刷、配布などについての多くの規則を変えなければなりませんでした。当社(パナソニック コネクティッドソリューションズ)には2万6000人の従業員がいるため、これは巨大なプロジェクトで、当初は1年、あるいはそれ以上かかると言われました。
──そこでどうしたのですか?
なすべきことに集中しました。1年かかるなど受け入れられなかった。経営陣と話し、みんなで力を合わせ、これを6週間以内に完了させることを全員で決めたのです。
マーケターは時に、ブルドーザーを使う必要がある。これは組織全体への力強いメッセージとなりました。明確な目的と情熱があれば、変革を起こすことはできる、と。
──山口さんのチームメンバーは、自分のビジョンをどのように達成するのですか?
私が注力しているのは、人々に自分のビジョンは何か、それと現状の違いは何か、目標達成のためにはどのようなステップが必要かを理解してもらうことです。このためには知識だけでなく学びも必要。私は常に、他のグローバル企業が何をしているかを学ぶため、大量のケーススタディーを読み、「これを実行したリーダーは誰なのか」「どのような方法を取ったのか」を調べています。
──リーダーシップに関して最も決定的だった経験は?
20代後半で初めてチームの長になったときのことです。私は優秀な社員とみなされていましたが、最初はとてもひどいリーダーでした。
とても結果を焦っていた私は、チームには多くを要求し、チームが結果を出せなければその分自分で対応していました。初年度のチーム評価結果は悲惨なもので、その指導方法はひどく嫌われていました。そこで私はアプローチを完全に変えたのです。
問題を議論し、アイデアを共有し、協働するため、チームメンバーとの1on1ミーティングを導入しました。高い成績を出すことを求めたのは変わりませんが、自分の役割を支援者へと変えました。1年後、チーム評価は会社全体で最高となり、対人関係は、チームを管理する上で最も重要な部分だと気づきました。人間は感情的な生き物で、大半の人は周囲からの理解や共感を求めているのです。