ジャパンタイムズ会長が広島の高原に全寮制スクールをつくる理由

NEEDが広島県神石高原町で主催したサマースクールの様子


──どんなクラスになるのでしょう?

息子はスイスの全寮制の学校で育ったのですが、彼はよく「日本ではどうなの?」と聞かれたと言います。なにしろ70カ国もの色んな国の子供たちから、「日本のチョコレートで使うカカオの原産国は?」「お正月やクリスマスはどう過ごすの?」など、小学生の時からすごく質問されたみたいです。日本に暮らしているとそこはあまり気にしないですよね。

──逆に日本のことを深く勉強したいと自ら思うようになりそうですね。

学校の先生たちはそれぞれの国の子に、「あなたは自国のアンバサダーです。その自覚を持ってくださいね」と仰っていました。面白いですよね。

──全寮制の魅力、同質すぎない多様性の魅力がわかった気がします。他に、教育において大切だと思われることは何ですか?

自然環境ですね。いまの学校や教室って、ビルのようで無機質じゃないですか。そうではなくて、自然の中で、風景や四季を正しく感じることができる環境で育つことが、最終的にはクリエイティビティに繋がると思っています。スマホやパソコンの画面の中にある世界と、人間がコントロールできない自然の不思議、どちらにも触れられることが大事だと思います。

──自然に触れ、体感することは欠かすことができないと。

そうです。例えば、ゴミ箱にちり紙を投げ入れるのが上手な人がいます。それは子供のころにボール遊びをしているとか、石を投げているとか、松ぼっくりを投げているとか、重さによって距離が変わることを算数として学ぶ前に身体で覚えているからなんだと思います。「このぐらいの紙だと、これ位の力で投げれば入る」という感覚が、無意識に備わっているのではないでしょうか。

塾に通い詰めて、自然の中で遊ばなくなり、部屋にこもってゲームばかりやる生活より、積み重ねた石がどこで崩れるとか、舗装されてない砂利道を歩いた時の足の感覚とか、日当たりの良い所にある枝と日陰にある枝の違いとか……。

理屈を抜きに知ると、それが勉強の中でも体験として分かります。だからこそ、小学校の環境は大切です。それを知ると知らないとでは、描けるイメージが違ってきます。



──それを実現する上で、神石高原は素晴らしい環境ですよね。弥奈子さんが今携わられている事業は、家業もあれば、ご自身がやりたいこともあるし、その中間もあると思うんです。それらのバランスはどう取られているんですか?

全てを自分でやるという感覚はありません。そもそも家業は手伝う予定ではなかったのですが、急に手伝うことになってしまいました。

「それやりたい!」って手を挙げたことはあまりありません。もちろん投げられたボールを受け取った時は、精一杯取り組みます。ただ、そのボールをいつでも受け取れるように常に準備はしています。

同時に自分の出番が終わったら、ボールを誰かに渡すということも考えています。それも自分だけができるのではなく、受け取った人がその人自身で変容していけるような形で渡したいと思います。引き継ぐべき人に引き継ぐ、その準備を常に意識しながら、取り組んでいたいです。




末松弥奈子◎広島県出身。1993年学習院大学大学院修士課程修了後、インターネット関連ビジネスで起業。ウェブサイト制作やオンラインマーケティングに携わる。2001 年ネットPRを提唱する株式会社ニューズ・ツー・ユーを設立。2013年より広島で船/海運/リゾートなどを手がける家業のツネイシホールディングスの経営に関わる。2017年6月より、「世界に開く日本の窓」として日本の現状と世界の動向を120年以上にわたって報道してきたジャパンタイムズの代表取締役会長・発行人。

監修=谷本有香 インタビュー=三宅紘一郎 校正=山花新菜 撮影=藤井さおり

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