ただ、アメリカでは、すでに多くの著名な映画監督や映画製作者が、ネットフリックスと映画製作を行っており、アカデミー賞ではそれらの人々が投票権を持っているため、カンヌのような反発は少ない。むしろ、ネットフリックスを追うようにして、アマゾンやアップルなどもコンテンツに力を入れ、続々とハリウッドの映画関係者と組んでクオリティの高い作品を製作している。
むしろ、映画の興行体系や製作システムを変えるものとして、ネット配信会社に対する期待は大きい。ちなみに、ネットフリックスの映画製作の年間予算は1兆円を超えるとも言われ、ハリウッドのどんな映画製作会社を上回るものとなっている。もはや、新しいビジネスモデルを提示する会社として、映画業界に旋風を巻き起こしている。
実は、「ROMA/ローマ」は外国語映画賞にもノミネートされており、日本からひさしぶりにこの賞にノミネートされた「万引き家族」(是枝裕和監督)と賞を争っている。ということで、「ROMA/ローマ」はスペイン語の映画であり、もし、この作品が外国語映画賞とともに作品賞を受賞することになると、これもアカデミー賞史上初のこととなる。
車庫入れのシーンが印象的
何かと話題の多い「ROMA/ローマ」だが、作品自体はモノクロで描かれており、キュアロン監督の自伝的要素が強い。1970年のメキシコシティのローマ地区にある一家の物語で、その家に住み込みで働く家政婦クレオを中心に、崩壊の兆しが見える雇い主である夫妻の微妙な関係を交えながら、計算され尽くした完璧な映像で語られていく。
この作品では、撮影もキュアロン監督自身がカメラを構えており、モノクロでありながら映画マニアをも唸らせる印象的な場面が次から次へと登場する。作品の前半で、父親がひさしぶりに家に帰還するシーンでは、車庫に入りきらないような大型のアメリカ車を慎重に操る姿が描写されるが、すでに亀裂の入り始めた家族の危うい関係を暗示しており、車庫入れをこれほどスリリングに見せる技には感心した。
また、家族が住む家をカメラが水平に移動していくシーンでは、まるで劇場の舞台を見ているような感覚が呼び起こされ、モノクロなのに、まるでそこに色彩が存在するかのような鮮やかな場面として目に映った。映画館でない、配信の小さな画面でも、そこに豊かな空間を意識させるカメラワークは絶妙だ。とにかく映像を観るだけでも価値のある作品かもしれない。
筆者としても、「ROMA/ローマ」は昨年観た映画のナンバーワンとして推したい作品なので、アカデミー賞の発表はいまから待ち遠しい。しかし、クオリティの高いアカデミー賞の有力作品が、家にいていつでも配信で観られるようになるとは、やはり映画業界の構造そのものが変わってきていると実感している。