言葉も世代も越えて、人生の後半に巡り会う「疑似家族」

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年の始めは家族が集まることが多いので、不動産に関する話題が出やすいという。不動産と言えば遺産相続。テレビの情報番組でも、持ち家の相続トラブルについて、度々取り上げている。

先日たまたま見たのは、年金暮らしで持ち家に住む女性の相談だった。子供二人はとうに独立し、夫が最近亡くなっている。子供たちは独居となった母親に、早く家を売ってお金に替え自分たちに分けてほしいと要求。子供のどちらかが母親を引き取るという話はない。しかし年金以外に収入のない高齢女性が、家を手放して借りられるアパートは少ない。

専門家は、家の持ち主である夫が亡くなってもその妻が住み続ける権利があるとアドバイスしていたが、不動産をめぐって家族の間でこんなトラブルが持ち上がるのは珍しくないことらしい。家族を持たない人はこうした悩みとは無縁に思えるが、歳を取って自分の所有物をどうするべきかという問題には、必ず突き当たるだろう。

家も車も所有しないようにしている人でも、長い間にはさまざまな大切な物を抱え込む。大きな転機が来た時に、それを任せることのできる家族に近い友人を作っておくことは大切かもしれない。

『オリンダのリストランテ』(パウラ・エルナンデス監督、2001)は、ひょんなきっかけで出会った二人が、そんな疑似家族に至るまでのドラマである。

外国人青年の登場で、人間関係が動きだす

オリンダ(リタ・コルセテ)は、ブエノスアイレスで小さなレストランを切り盛りしている中年女性。卵を割り入れた小麦粉を力強く練り、トマトやバジルを手早く刻み、沸き立つ大鍋に食材を放り込む。長年厨房で働いてきたオリンダの手から次々生まれる料理は、どれも本当に美味しそうだ。

なのに彼女の顔から笑みが消えているのは、クレームをつける客がいたり、給仕のアンヘルがヘマをやらかしたりでイライラが続いている上、店を売るか売るまいかという悩みも抱えているからだ。

オリンダを見守るのは、常連客の初老男性フェデリコ。悠々自適な風情の彼とオリンダの関係は途中まではわからないが、長年の付き合いであることは間違いない。

フェデリコがナプキンに器用に描いたオリンダやアンヘルや客たちの絵を、オリンダはいつも大事そうにエプロンのポケットにしまっている。

ある日、オリンダが怒ってアンヘルに投げた皿が、通りがかりの外国人の頭を直撃する。彼は、恋をした女性を探してブエノスアイレスにやってきたドイツ人の青年ペーター。

片言のスペイン語のペーターとギクシャクしたやりとりを交わしつつ、オリンダはお詫びを込めて精一杯もてなし、見送る。

しかし行き場を失くしたペーターが再びレストランに現れ、自分を雇ってくれと懇願。一旦断るオリンダだが、座り込みに根負けしてしばらく店に住まわせることに。ここから、彼女をめぐる人間関係が動き出していく。
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文=大野左紀子

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