「ロッキー」とは異なる遺伝子を持つ「クリード」シリーズの最新作

主演のマイケル・B・ジョーダン(Photo by Juan Naharro Gimenez / Getty Images)


さて、現在公開中のシリーズ第2作「クリード 炎の宿敵」だが、監督はクーグラーではなく、スティーブン・ケイプル・Jr.だ。当初は脚本にクレジットされているシルヴェスター・スタローンが監督をするという話もあったが、クーグラーの強力な指名で、新人のケイプル・Jr.に白羽の矢が立ったという。

クーグラーが第2作の監督を引き受けなかった理由としては、「ブラックパンサー」と製作時期が重なることが挙げられていたが、どうもそれだけではないと見ている。ここで「クリード」の第2作を監督すればヒットは間違いないが、彼としては、自分に「クリード」の色がついてしまうのを回避したように思う。

そうかといって、スタローンに監督を任せておけば、また昔の「ロッキー」シリーズに戻ってしまう。それで自分の大学(南カリフォルニア大学映画芸術学部)の後輩であり、同くサンダンス映画祭で初監督作品「The Land」(2016年)が上映されたケイプル・Jr.を指名したのではないかと推測する。

スティーブン・ケイプル・Jr.は、オハイオ州クリーブランドの出身で、クーグラーより2歳若い1988年生まれ。大学から映画祭までクーグラーとまったく同じ道をたどり、メジャー作品の監督に抜擢された。ちなみに米フォーブスで、世界に影響を与える30歳未満の映画人として選出されている。

「ライアンが自分の故郷を舞台にした『フルートベール駅で』をつくったように、ぼくも故郷に戻って『The Land』をつくった。彼のコンセプトにはリアリティが中心にある。ぼくも自分の作品でやりたかったのも同じことで、映画の中に現実を入れ込みたかった」

こう語るケイプル・Jr.だが、彼とクーグラーが重要視したリアリティは、「クリード 炎の宿敵」でも見事に生かされている。前作でも見事だったボクシングのリングのシーンでは、実際の試合を見ているかのような、ボクサーの汗や血が間近に感じられる迫力がある。

富や名誉よ栄光のためではなく

また、物語としては、主人公のアドニスが何のために闘うのかという点に重きが置かれ、彼が苦悩する姿が細やかに映されていく。それはけっして富や名誉や栄光のためでなく、人間としての生き方にフォーカスしたものとして描かれているのだ。

かつて「ロッキー」は、1960年代後半から70年代前半にかけて全盛を極めたアメリカン・ニューシネマへのアンチな作品として、1976年に登場した。概ねハッピーエンドでは終わらないアメリカン・ニューシネマに対して、「ロッキー」は栄光に彩られたアメリカン・ドリームへの賛美に満ちている。それまでの流れに終止符が打たれた時期に、タイミングよく登場した作品として記憶されている。
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文=稲垣伸寿

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