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2019.01.23

eスポーツはスポーツになれるのか? 新リーグ「LPE」の挑戦

(左)チャビ・コルテス・トゥビオ(右)熊谷祐二


名門チームの力でリーグ運営を健全化

プロスポーツチームがもたらすノウハウは、選手の育成面にとどまらない。リーグ運営の健全化にも大きな影響を与える可能性がある。

オンラインゲーム大会の主催やゲームジャーナリストとしてスペインのゲーム業界に20年以上も従事してきたチャビは、2年前から、スポーツクラブのeスポーツ事業参入をサポートする会社を立ち上げ、バルセロナなどクラブチームとのコネクションの基礎をつくってきた。そんな彼がPEL社を立ち上げたのは、長い業界経験から、いまのeスポーツ業界には新たなメッセージ性をもつリーグが必要と判断したからだ。

「いまあるリーグは、eスポーツを知らない人からすると不健康なイメージもある。歴史あるプロスポーツクラブばかりが参加するリーグをつくれば、そのイメージを変えることができると考えたんだ」

いまのeスポーツリーグに採用されるタイトルは、戦場でのサバイバル戦をシミュレートしたFPS(ファーストパーソンシューティング)が多く、親が子どもを気持ちよく会場に連れていける環境とは言えない。大会の運営ノウハウも確立していないため、八百長や不正も少なくなく、選手の言動やふるまいも不安要素になりうる。そこでLPEでは、まず「健全化を打ち出す」とチャビはいう。

「LPEではバイオレンスを想起させるタイトルはリーグ種目に採用しない。また男女が平等にチームを組んで戦える環境や、透明性のあるレギュレーションで大会を運営する」

プレイヤーの「プロ化」を目指す

チャビと同じくリーグ健全化を主張するのは、アカツキのeスポーツ事業責任者で、PEL社取締役としてチャビとリーグ運営にあたる熊谷祐二だ。

「サッカーや野球では、大会運営だけでなく選手にも差別的な発言や行動を慎むよう教育するのが当たり前。プロ選手はスマートな振る舞いで、人々に尊敬される存在でなければならないからです」

サッカーや野球など、いわゆる体を動かすスポーツと比べると、デジタルゲームにはいまだにネガティブな印象がある。

「子どもが公園でサッカーをプレイすると親は喜びますが、家に集まって携帯ゲームをプレイしていると眉をひそめるでしょう」

そんな印象を払拭するのもLPEの狙いだ。彼らはその実現のために、プレイヤーの「プロ化」というコンセプトを掲げる。「eスポーツ界のイチローを生み出したい」と、熊谷は目を輝かせて語る。

「イチローに憧れて子どもたちがスイング練習をするように、eスポーツの発展には、象徴的なスターの存在が不可欠です。その人に憧れて子どもたちがコントローラーを握り、それを親や地域の人が応援する。さらに上達した彼らのプレイに、新たなファンが酔いしれる、というように。サッカーや野球が100年かけてつくってきた文化は、デジタルゲームでも再現可能なはず。それが実現すれば、eスポーツは文化として、より広く社会に受け入れられるはずです」

熊谷が選手のプロ化に強く期待する背景には、彼自身のキャリアも関係している。「社会を変える起業家たちの姿に憧れて活動してきました」という熊谷は、堀江貴文の球団買収騒動を見て、「スポーツ×ビジネス」領域に興味をもち起業の道へ。創業メンバーとしてiemoに参画し、DeNAへの売却に貢献。15年にはオンラインスポーツ教育サービスなどを手がける「SkyBall」を立ち上げた。
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文=野口直希 写真=小田駿一

この記事は 「Forbes JAPAN 日本の起業家」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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