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2019.01.24

3000万人規模になった日本のインバウンドに求められる「中身の充実」

MTS_Photo / Shutterstock.com

日本を訪れる外国人観光客は、いまや年間3000万人規模にふくらみ、街の景観のみならず、我々の社会を質的にも変えつつある。実際の経済効果はともかく、社会の新たなインフラづくりも、訪日外国人(インバウンド)の存在を前提とした仕様に変えていくことが、半ば当然のように考えられるようになった。

諸外国に比べて遅れが指摘される日本のキャッシュレス化も、経産省が掲げるキャッシュレス決済の普及を促進する取り組み(キャッシュレス・ビジョン)や、昨年末にソフトバンクが鳴り物入りで実施したモバイル決済サービス「PayPay」のユーザー獲得キャンペーンなどに象徴される、新しい動きが見られるようになった。

もし、これほど訪日外国人の数が増えていなければ、また中国のような近隣国でこれほどキャッシュレス化が進んでいなければ、こうしたことも起こらなかったかもしれない。

日本は観光競争力世界第4位

2003年の小泉政権時に始まった訪日外国人を呼び込む動きは、最初は官の一方的な呼びかけから始まったが、東日本大震災などの自然災害を乗り越えたことで、いまや全国各地で盛んになっている。その結果、ダボス会議で知られる世界経済フォーラム(WEF)の観光競争力ランキングで、日本は2017年にはなんと世界第4位になった。

これはかなり驚くべきことで、具体的には、震災の影響で2011年に年間622万人まで落ち込んでいた訪日外国人数が、18年には3119万人と短期間で大幅増加を見せた「成果」が大きいのだが(そのような国は世界中探しても他にない!)、日本の観光力に対する国際的な評価は確実に高まっている。

実際、多くの外国人は日本の伝統文化やサブカルチャー、自然の恵みも含めて、我々が思っている以上にその価値を理解してくれている。


柔道の大本山である講道館の嘉納治五郎師範の像の前で記念撮影する観光客

その評価を、受け入れ側の我々はどれだけ実感しているだろうか。ちょうど1年前に本コラムで指摘したとおり、数的拡大はいいコト尽くめとは限らない。一部では、受け入れ側の地域と訪れる外国人の双方に不愉快な関係が生まれているからだ。

たとえば京都のように、外国人の増加で地元の人たちの生活に支障が出ている「観光公害」のケースもある。観光客が増えても、いったいどこにお金が落ちているのかを問う声もある。

九州では毎日のように中国からの観光客を乗せた多数のクルーズ客船が寄航しているが、乗客たちが特定の免税店でしか買い物しなければ、地元は直接恩恵を受けているとはいいがたく、住民は無関心とならざるを得ない。


1日100台近いバスが待つ福岡港のクルーズ客船ターミナル

政府は東京五輪開催の来年中までに外国人観光客4000万人という目標を掲げるが、はっきり言って、それが達成されるかどうかはたいして重要な問題とは思えない。そもそも「東京五輪までは訪日客は増える」というのは日本側の勝手な思い込みにすぎない。

それを決めるのは、外国の人たちの胸の内次第だからだ。さらにいえば、昨年9月に起きた大型台風や北海道地震で明らかなように「災害大国」というハンディを背負う日本にとって、お役所の「成果」としてはわかりやすい数より、インバウンドの「中身」の充実に議論を移すべきだろう。

では、ここでいう中身とは何か。それは受け入れ側の地域社会の人々が抱えるさまざまな問題を、インバウンドの活力を使っていかに解決していくか。その知恵を育むことだ。本来、インバウンドは地域社会が舞台なのだ。訪日外国人呼び込みの目的もそこにあったはずだからである。
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文=中村正人

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