その意味で、これからの日本のインバウンドを考える上で重要なトピックスとなったのは、民泊新法(住宅宿泊事業法)の成立だといえる。「住宅(戸建住宅、共同住宅等)の全部又は一部を活用して宿泊サービスを提供」と定義される日本の民泊は、右肩上がりの訪日旅行市場の追い風を受け、急拡大した。
合法化によって本格的な民泊時代が始まっている
ITを活用し、マンションやアパートの空き室などで民泊を運営するホストや、彼らにサービスを提供する代行会社が続出。ところが、あまりに手軽にマッチングできることから、家主不在の非居住型民泊が増え、近隣住民の不安や懸念が広がった。
不特定多数の外国人が日常の場に現れることは、事情を知らない近隣住民にとっては耐え難いものだった。彼らのやり方は、高齢化でコミュニティの衰退が進む都市の弱みに付け込み、自分たちだけ利益を得ようとしているように見えたことから、メディアは増殖する「ヤミ民泊」を糾弾した。
こうした民泊に対する厳しい見方は、誰のための外国人誘致なのか、という問いと無関係ではないだろう。一方、日本には人口減と空前の空き家問題があり、拡大する訪日旅行市場を経済活性化につなげたいという経済界の意向も強い。
ホストが自治体に届出を行い、年間の営業日数の制限を守るなど、ルールを明確にすることで民泊を合法化しようとする政治的な機運が生まれ、2017年に民泊新法が成立。昨年6月15日の施行前夜には、エアビーアンドビーが自治体からの許認可がない施設の予約を取り消したことで一時混乱があったことは記憶に新しい。
新しいスタイルの民泊にも期待
それから約半年、新法は日本の民泊シーンを塗り変えつつある。全国各地のホストたちが本来あるべき民泊の姿を静かに追求し始めているからだ。
民泊は、地域住民と外国人が直接触れ合うインバウンドにとって、最もデリケートで、双方の関係を考えるうえで貴重な場である。自らの住居にゲストを泊める居住型(同居)民泊に取り組むホストたちの話を聞くと、ホテルや旅館のようなプロの接客ではなく、ごく普通の地域住民のもてなしによるアマチュアリズムや、その場で生まれる新鮮な両者の関係性は、民泊を選ぶ海外のゲストにとって好意的に受けとめられていることがわかる。
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今後、日本の民泊は多様化していくだろう。日々ゲストと向き合う民泊のホストたちは、「暮らすように旅したい」「家族みんなで泊りたい」など、今日の外国人観光客が求めるキッチン付きや一棟貸しなど、同じ仕様のホテルではかなえられないニーズに応え、新しいスタイルを生み出していくに違いない。
また、企業の市場参入で、個人では運営の難しい高級物件が登場すれば、民泊のイメージも変わるかもしれない。かつては厳しい目で見られた非居住型民泊も、合法化の中で新しいやり方が生まれることを期待したい。
2019年のインバウンドは、最も多くの観光客を日本に送り込んでいる中国と韓国を取り巻く国際情勢を考えると、数の上では調整期となり、全体としてはそれほど拡大しないかもしれない。だが、それでも少しもかまわないと思う。むしろ、来年の東京五輪に備えるという意味でも、中身の充実をじっくり考える年にすればいい。
連載 : ボーダーツーリストが見た北東アジアのリアル
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