応募者は50000超 その中で存在感を示す日本
タリン旧市街から車で約10分。空港のほど近くにあるe-Residencyチームのオフィスは、古い倉庫をリノベーションした石造りの建物だった。コートについた雪を振り払いながらベルを鳴らすと、赤いクリスマスセーターに身を包んだメンバーたちが出迎えてくれる。
政府機関であるにも関わらず、約15名のメンバーのうち半数は外国人であるという同チーム。「ホランド元大統領のコミュニケーションチームで勤務していたフランス人や、シリコンバレーを拠点にしていたアメリカ人など、多様性に富んだメンバーがいるんだ」と、早速チーフ・エバンジェリストのアダムが説明してくれた。そんなアダム自身も、エストニアにルーツを持つものの、イギリスで生まれ育った経歴を持つという。
e-Residencyのチーフ・エバンジェリスト アダム・ラング
そもそもe-Residencyとは、2014年にエストニアが世界で初めてローンチした電子国民プログラムで、元々は電子政府関連の新規事業として立ち上げられた施策だ。その背景には、エストニアの人口が建国以来緩やかな減少を続けていて外貨の獲得が急務であったこと、そして当時既に電子政府システムが整備されており、リリースに向けた障壁が少なかったことが挙げられる。
ユーザーはe-Residencyカードを取得することで、同国が自国民に提供している電子政府システムの一部を利用することができ、ビジネス銀行口座の開設や、エストニア法人の設立、そして電子署名などが可能となる。なおビザとは無関係のため、取得したところで実際にエストニアに住めるわけではない。
「グローバルに活動する起業家やフリーランサー、ノマドワーカーから人気を博していて、これまでに世界167カ国から50000超の応募があったんだ」と、アダム。日本からの登録者も2000名を突破し、2019年1月21日現在で国別登録者数ランキングでもドイツ、アメリカに次ぐ6位となっている。(国別登記企業数ランキングは182社で13位)
e-Residencyカードを専用のUSBリーダーを用いて接続することで、世界中どこからでも法人登記や電子署名が可能となる
既にe-Residency発のサービスも多数生まれており、例えばエストニア最大手のフードデリバリーサービス『Wolt』は、e-Residencyを活用してフィンランド人が起業した会社だ。現在6000社を超えるという『e-Residency企業』について、「多くは、フリーランサーたちによって立てられた小規模の会社だね。ITである必要はないし、トイレットペーパーを販売している会社だってあるんだ」と、アダムは語る。