とはいえ、民間企業とは異なり、このストライキはかなり深刻な矛盾を含んでいる。なぜなら、最大の被害者は、ストライキで顔をつぶされる行政の長ではなく、学校給食だけが唯一の食事の手段である貧困層の生徒たちだからだ。そのことを承知しながらも行使されるストライキに、いったい何の意味があるのだろうか。
これまで、アメリカの教員によるストライキは基本的に最大限回避されるべきというのが常識だった。政府の「シャットダウン」が、トランプ大統領を含め、このところのほぼすべての政権で実施されているのに比べ、公立校での本格的なストライキは、全米でも5年や10年に1度あるかないかというレベルだった。それはまさしく、「子供たちを犠牲にしてはならない」という意識があったからだ。
ところが、去年2月、ウエストバージニア州の公立校が全州レベルのストライキをやり、5%の教員の給与アップを勝ち取ると、隣のバージニア州、さらにオクラホマ州、ノースカロライナ州と広がり、結局8州にまで広がった。なかでもアリゾナ州では、なんと「2年間に給与20%アップ」という成果を収め、テレビでも連日報道された。
給与6%アップも拒絶
さて、今回、1月10日から始まったロサンゼルス学校区のストライキはより深刻だ。60万人の生徒に対し3万3千人の教員を抱える学校区で行われるものだが、そもそもこのストライキは不可解だ。2兆2000億円を超える予算を州政府から割り当てられている学校区だが、すでに毎年500億円の赤字を計上しているのだ。
預金は1800億円しかないので、あと3年しか現行の状態を保てない。そこにきて、教員組合の要求は3000億円分の給与アップだ。すでに学校区の帳簿が成り立たないのがわかる。
しかも、ストライキを決行すると、各校は、学校閉鎖、または学級閉鎖の措置をとらなければならないが、州政府が学校区に与える予算は、その前年にクラス参加した生徒数の年間延べ人数で計算される。つまり、ストライキをすればするほど、来年の予算が減らされるという単純な仕組みだ。
今回の教員のストライキで掲げられている看板には、「On Strike. For our Students(生徒たちのためにストライキ中)」とある。
教員の持ち出している主張は、教室あたりの生徒数が多すぎるとか、学校に保険指導員を増やすべきとか、英語の先生を増やせなど、給与のことは露骨に表には出していない。しかし学校区を管轄するオースティン・ビュトナー総裁によれば、給与6%アップの提案も組合側は拒絶したという。