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2019.01.22

インスタをやめ、noteに挑む。インターネット舞台に活動20周年「まつゆう*」の強さと葛藤

まつゆう*(写真=小田駿一)

様々なサービスが人々のディスプレイを奪い合い、ブレイクしては消えていく。そんな魑魅魍魎のインターネットの世界で20年間、しなやかに逞しく生き抜いてきた女性がいる。

クリエイティブ・プランナー、松丸祐子。「まつゆう*」の名で知る人も多いのではないだろうか。

10代の頃から雑誌やテレビCMなどで活躍してきた彼女だが、20年前、一般家庭にはまだ普及していなかったパソコンを購入し、独学で女子向けウェブマガジン「chelucy」(チェルシー)を制作・公開した。

女性のファッションやライフスタイル、カルチャーを扱うホームページは当時珍しく、10〜30代の女性に爆発的な人気を得た。

それ以降、彼女は20年間、一貫してインターネットの世界に活動の軸足を置いてきた。ブログ、ツイッター、ユーストリーム、LINE、YouTube、インスタグラム……。新たなサービスやツールが生まれるたびに真っ先に使いこなし、多くのユーザーに広めた。独自の企画力やクリエイティビティを生かし、プランナーとしても活躍する。

そんな彼女が昨年末、大きな決断をした。フォロワー数33万人の自身のインスタグラムのアカウントを削除したのだ。

国内外からのオファーを受け、日々の仕事に直結していた。生活を賭けた覚悟である。そこには彼女の知られざる葛藤があった。

そして1月21日、彼女はコンテンツ配信プラットフォーム「note」上でマガジン「m’s mag.」(ミズマグ)をスタートさせた。ブロガーとしての「原点回帰」とも言える、その挑戦の理由は。

40歳を迎えた彼女が語るインターネット、SNS、ひとりの女性としての半生。そのバイタリティの源泉に迫る。

「インスタグラマー」の葛藤、自ら手放した理由

昨年末、まつゆう*は自身のツイッターにこんな投稿をした。

まつゆう*(@matsuyou)のツイッターより

「実は、2年前からやめようかどうか迷っていたんです」

ここ数年は「インスタグラマー」と呼ばれることが多かったという彼女が、その枕詞を自ら手放した。若者が憧れるその肩書きに対しては、複雑な思いがあった。

彼女がインスタを始めたのは2011年。ツイッターのための写真加工アプリとして登録したという。

写真とハッシュタグを組み合わせた投稿の手軽さとクールさが若者の心を掴み、インスタグラムはみるみるうちに世界規模のSNSに成長した。

「最初は自分の趣味で自由に投稿していました。次第に、お仕事としてお声掛けをいただくようになり、身に余るほどの素敵なパーティーや発表会にお呼びいただくようになりました。フランスのラグジュアリーブランドから直接、お仕事をいただくこともありました。本当に光栄なことでした」

夢のような投稿の数々。「お声掛けいただけるうちが花」。そう思っていた。

タイムラインが次第に煌びやかになるにつれ、次第に「本当の自分」との乖離に悩むようになる。パーティーに招待される度に「投稿しなきゃ」と自分にプレッシャーをかけてしまう。真面目な性格だからこそ、仕事だからと、なかなか割り切ることができなかったのではないだろうか。 

近年、しばしばニュースになっているのが、インスタグラマーによるプロモーション投稿。米国では連邦取引委員会(FTC)がセレブリティのSNS上でのプロモーション投稿について注意を促したという報道もあった。報道によると、フォロワー数に応じた報酬が支払われるケースが多いが、報酬を受け取りながらも広告やプロモーションの表記なしで投稿しているケースも散見されるという。

「インスタグラムが悪いというわけではなく、インスタグラムをめぐる環境に、私自身の心が追いつかなくなってしまったんです」。まつゆう*はこう語った。

20年間、女性へのポジティブなメッセージを様々な手段で表現してきた。だからこそ、自身の思いを最大限に体現できる表現空間で発信したい。そんな願いからの決断という側面もあるのだろう。

インスタでお世話になった人には事前に思いを伝えた上で、昨年の大晦日にアカウントごと削除した。仕事が減ることも覚悟の上だった。

意外なことがあった。多方面から共感のコメントが相次いだのだ。「インフルエンサーではなく、友達としてよろしく」。ツイッターのフォロワーは「お帰りなさい!」。そんな反応が嬉しかった。
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文=林亜季 写真=小田駿一 資料写真=まつゆう*提供

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