「インクルージョンな社会」をつくるため、いま私たちに必要なこと

左から林千晶、増原裕子、清水晶子、小国士朗


:清水さんにも自分の中にマイノリティー性は感じますか?

清水:私はあまり感じないです。ですが、マイノリティー性を「ほかと違うこと」と捉えるのは違うと思っています。わたしは、マジョリティーとマイノリティーを「人と社会のシステムのこと」だと思っているんですね。

例えばみんなが食べられるものを、わたしが食べられないとしても、わたしはそれをマイノリティーにはしない。単純に「違う」というだけです。そういう意味ではマイノリティーを感じることはあまりないですね。



:今の話みたいに、単純に「好きな食べ物が違う」ということにダイバーシティとインクルージョンの話をする必要はない。だけど社会システムの中で排除されがちなところは、たぶんマジョリティー側は気づかない。「社会的に壁を感じます」というものは、言わないと伝わらないと感じています。

小国:ぼく自身もマイノリティー性を感じることがあんまりないので、マイノリティー性を考えることもないし、ダイバーシティを考えることもない。

だけど、認知症の人は500万人くらい、軽度の認知症の人を含めると1000万人くらいいるので、数でいうとマジョリティーなんです。だけど、社会の中ではマイノリティーにされてしまっている感覚があるじゃないですか。

だからぼくは、社会問題は「社会受容」の問題だと思っています。受容度が上がれば意外と課題が解決できちゃう気がします。マイノリティー性に対して「それもありだよね」とか、シングルマザーの人に対しても「シングルマザー? オッケー!」と言えれば、受容度が変わっただけでその人自身は変わらなくていい。「私はシングルマザーだ」と言えるようになるし、マイノリティーやマジョリティーなんてどうでもよくなるんです。

法律や制度を変えることも、もちろんすごく大事だとは思いますが、「社会の受容度が上がるだけで解決できる問題が多い」ということを、『注文をまちがえる料理店』をしていて思ったことの一つです。

清水:やっぱり大事なのは、「お母さんがいたらきっとお父さんがいる」「女の人だったら男の人と付き合っている」ことを前提にしないこと。いろんな人がいるので「今の前提は必ずしも絶対ではない」というかたちをつくっていくことだと思います。

小国:そうですね。まさに『注文をまちがえる料理店』も「注文を間違えたっていい」「間違えちゃったけど、まあいいか」と言えたらいいよね、というコンセプトにして、これまでの前提を変えているんです。

認知症がネガティブだとか、LGBTはこうでシングルマザーはああだなどの前提となる共通認識がものすごく強いので、それを自覚してひっくり返すことがぼくはすごく楽しいです。



:確かに『注文をまちがえる料理店』は前提を変えることで、弱みになるものが、急に強みになる。

小国:例えば、『注文をまちがえる料理店』は「認知症の方に対して不謹慎である」とよく言われます。「不謹慎だ」とか「見せ物にするな」「笑い者にするな」と。特に、福祉関係の方というか、これまでも一生懸命やってこられた方に言われます。

でもぼくは、それはしょうがないと思っています。「注文をまちがえる料理店という名前をつけて認知症の方が働いてるんです」と言ったときに「本当に大丈夫?」という人の気持ちも全然わかっていました。だけど、それも込みなんです。

結局、まだ誰も見たことがない、知られてもいない価値観を提示する仕事なので、そこに対立が起きたり、批判がきたりするのは当たり前なんです。だからその上で、鮮やかに変えていきたいんですよ。

清水:そう、本当にその通りだと思います。

小国:オセロに近いなと思いました。要は、確実に進歩はしていて、前提をひっくり返すことで気づくこともある。それがまた「やっぱり違う」と言えるようになって、また次のステージに行くとまた何かが生まれて……と、こうやって、社会がオセロのように確実に進歩すると思っています。

:その考え方は面白いですね。短いセッションでしたが、「ダイバーシティ」「インクルージョン」という言葉がどれだけ重要かは伝わったのではないでしょうか。本日はありがとうございました。

文=須藤千春

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