「全米球場跡地巡り」に感じるロマン


翌日、手術を終えた松井選手は、深い謝罪の気持ちを表す声明を発表したのだが、これがニューヨーカーたちを驚かせた。

訴訟社会のアメリカでは、例え自分が悪くても絶対に相手に謝ることはない。僕にも経験がある。交差点で停車して信号待ちをしていた僕の車に、後方の車が雪でタイヤを滑らせて衝突してきたのだが、その車を運転していた女性は、自分の正当性を主張するばかりで、最後まで一言も謝ることはなかった。

日本では、打者に死球を与えると、謝罪の気持ちを表すために投手と一塁手が帽子を取ることがあるが、メジャーリーガーは絶対に謝らない。全力プレー中に怪我をして謝るメジャーリーガーなんていない。これは日米の完全な文化の違いだ。

松井選手の声明は、自らの不注意で怪我をし、迷惑をかけてしまったことに対する謝罪であり、日本人にとってはごく当たり前のことなのだが、ニューヨーカーにはこれが理解できなかった。しかし、彼の誠実さ、勤勉さ、謙虚さ、つまり彼の日本人らしい人間性によって、この声明は好意的にとらえられたのだ。ニューヨーカーたちの驚きは、瞬く間に賞賛に変わっていった。

怪我から4か月後の9月12日、松井選手は戦線復帰した。観客からスタンディング・オーベーションで迎えられ、それに応えるかのように、彼は4打数4安打1打点2得点と大活躍した。その翌日、市内の日本レストランでランチをしていた僕の隣で、松井選手が男性と会話を楽しみながら食事をしていたのだが、怪我からの大活躍により、表情はとても明るかった。

彼はその店の常連のようで、気取った雰囲気は全くなく、アメリカ人だけでなく、日本人からも親しまれている様子がうかがえた。そういえば、松井選手は、シーズンオフになると必ずニューヨーク在住の邦人プレスの人々と草野球を楽しむのが恒例行事になっていた。日ごろお世話になった人々をもてなし、感謝の気持ちを表すことも大切にしていたのだろう。

翌年3月、僕は、ヤンキースのスプリング・キャンプを見学するため、フロリダ州タンパへ向かった。ヤンキースのキャンプ地となっているタンパのレジェンド・フィールドには、大勢の熱狂的なヤンキースファンがいた。

あるファンがサインをもらおうと投げ込んだボールが体に当たってしまったアレックス・ロドリゲスは、それに怒って、クラブハウスに引っ込んでしまった。一方、松井選手は自らファンの前に駆け寄り、一人ひとり丁寧にサインを開始した。こんなところでも、彼の人間性の高さを感じた。その時に松井選手にサインしてもらったボールは、僕の宝物の一つだ。


フロリダ州タンパのヤンキースキャンプ地にて。筆者撮影

日本人選手がメジャーリーグで成功するためには、松井選手のような高い人間性が求められているのだろう。また、松井選手のメジャーリーグでの成功の裏には、ビジネスの世界でも成功する秘訣やヒントが見え隠れしているような気がしてならない。

文=香里幸広

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