バンドンの街を歩くと、どこか南アジアを思わせる光景が広がる。しかしその中に、突然、洗練された大きなカフェが姿を表す。そうしたカフェの多くは、建物が直線的でスタイリッシュ。そして天井が高い。使用するイスやテーブルは、建物と一体感のあるデザインが選択されている。
カフェの店内を錦鯉が泳ぐ。近代的な建物に自然が調和した不思議な空間だった
ある日訪れたカフェでは、テーブルのすぐ脇を錦鯉が泳いでいった。また、別の日に訪れたカフェでは、鳥かごをイメージしたような見たことのない内装で、あまりの居心地の良さに、気がつけば夜のとばりが下りていた。
植物の「壁」に覆われたカフェ。市内は近代的な建築を採用するカフェが目立った
周囲を見ると、皆コーヒーカップ片手に、友人らと語らっている。あまりアルコールを飲む習慣がないバンドンの人々にとって、カフェは「社交場」としてなくてはならない存在だ。
バンドン市内を何日にもわたって案内してくれたインドネシア系の知人は、「ストロング・カフェカルチャー」について「すごいだろう」と力を込めた。そして、笑顔でこう言葉を継いだ。「インドネシア国外の人は誰もこのことを信じてくれないんだ」。
アップテンポな音楽に合わせて若者らが体を揺らす。しかし手に持つのはコーヒーカップだ。屋外は広場のようになっており、夜の空気が心地よい
17世紀にオランダ人がアラビカ種を持ち込み、コーヒー栽培がスタートしたインドネシア。ここバンドンは高地に位置し、コーヒー栽培に適した環境であることから、古くよりコーヒー栽培が盛んだった。
暑いジャカルタから、乗り合いのバンに4時間揺られてバンドンを訪れると、その過ごしやすさに驚く。
アイスクリームに熱いエスプレッソをかけて食す「アフォガート」。バンドン市内の多くのカフェで目にした
バンドンのカフェカルチャーの歴史を垣間見ることができるのが、コーヒー豆の焙煎所「Kopi Aroma」だ。創業はなんと1930年(昭和5年)。販売する豆は、天日干し後8年寝かせてから焙煎したものだという。
バンドンのカフェ文化を支えてきた“聖地”では、コーヒー豆を求める地元住民らの長い列が絶えない。
「Kopi Aroma」の店内をのぞくと、店員らがコーヒー豆の計量に追われていた
ようやく順番が回ってきて狭い店内に入ると、香ばしくも優しい香りに包まれる。年季の入ったミルが渋い。
店員からオーダーを急かされ、アラビカ種をリクエスト。オランダ人が17世紀にジャワ島に持ち込んだのも、このアラビカだった。価格は500gで480円ほど。ハンドドリップで楽しんだが、非常に濃い一方でなぜか苦味が少なく、癖になる味わいだった。