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2019.01.22

アマゾンがテレビ番組「SHARK TANK」に目をつけたワケ

Amazon Launchpad上で展開されている「Shark Tankコレクション」


今から約17年前、番組がスタートして1カ月頃のエピソードだ。番組スタート当初から、いつも言動が厳しく、まったく投資しない名物社長がいた。リサイクルショップの社長、堀之内九一郎氏だ。堀之内社長は、事業に失敗し、ホームレス生活を余儀なくされた経験を持つ苦労人。人一倍“お金の大切さ”を理解しているからこそ、投資には慎重な「虎」だった。

「虎」を動かしたジャパニーズ・ドリーム

「日本人女性初のアクロバット飛行士になりたい」という挑戦者が現れた時のエピソードである。虎たちは、「これはビジネスじゃない」と敬遠した。

しかし堀之内社長だけは、「自分は、小さい頃からパイロットになるのが夢だった。日本で、はじめての女性パイロットが誕生したら、面白いかもしれない。その夢に乗りますよ」と言い、300万円を投資した。まったくビジネスではない、彼女の“夢”に投資したのである。この放送は、深夜でありながら大反響を呼んだ。

その頃、この放送をたまたまテレビで観ていた視聴者の中に、同じように、アクロバット飛行士を目指していた男性がいた。その男性は、番組を観た翌日、なんと堀之内社長に電話し、「僕にも投資してください!」と訴えた。そして後日、浜松の本社まで押し掛けたのである。堀之内社長は、その行動力と熱心さにほだされ、「夢があるなら、頑張れ」と投資を決めた。

僕は、堀之内社長からこのエピソードを聞いていたが、あえて番組内では一切触れず、放送もしなかった。それから何年もの月日が過ぎた。「あの男性は、どうしているのだろうか?」と思っていたら……ニュースに出ているではないか!


レッドブルのエアレースの様子(Getty Images)

テレビ番組には人生を変える力がある

レッドブル・エアレース・ワールドチャンピオンシップ(Red Bull Air Race World Championship)をご存知だろうか? アクロバット飛行士による「エアレース」シリーズの総称で、国際航空連盟公認のレースだ。「空のF1」とも呼ばれ、最高速度370km/h、最大10Gにおよぶ、過酷な空中タイムトライアル競技である。

2017年にその年間チャンピオンに輝いたパイロットが、堀之内社長に直談判して投資を受けた張本人、室屋義秀氏なのだ。


アクロバット飛行士の室屋義秀氏(2017年7月23日撮影、Getty Images)

室屋氏は、アジア人としてはじめて、2009年から同レースに参加。そして2017年、ついに「年間総合優勝」に輝いたのだ。もちろん、日本人初の快挙である。

もし「¥マネーの虎」を観ていなければ、室屋氏は、アクロバット飛行士になれなかったかもしれない。ちなみに、出場できるパイロットは世界中でたった14人。F1ドライバーよりも少ないのだ。

大袈裟かもしれないが、僕は「ひとつの番組が、世の中を変える!」と信じている。常々「何かしら社会とつながり、何かしら視聴者の人生に影響を与える、そんな番組を作りたい」と思っている。しかし、実際に今回のアメリカと日本のニュースを見たときは……正直、震えた。

連載:世界のテレビ、日本のテレビ
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文=栗原 甚

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