ビジネス

2019.01.15

ZOZO前澤氏の1億円お年玉は「コスパの良い広告」でも「広告の終わり」でもない

ZOZOの前澤友作 代表取締役社長(Getty Images)


以上のような文脈があってこそ、この企画への参加動機は「運よく100万円をもらう」ではなく「夢を発信する機会にする」という意味的な置換が起こり、情報拡散のドライバーになったのだと考えます。自分が嫌なもの、シェアしていることが恥ずかしいと感じてしまうものは、ユーザーはシェアしないものです。

現に、具体的には言及しませんが、この1億円お年玉プレゼントと同じような企画を同時期に立ち上げた人もいましたが、そちらは盛り上がりを見せませんでした。前澤社長のパーソナリティがポジティブに影響したのは間違いないと思われます。個人もメディアとなりメディア以上のムーブメントを起こせる時代の象徴的な出来事だったと言えるでしょう。

その意味で、今回の件は特殊な条件が重なったがゆえに成立したのであり、「生活者にお金を配れば広告的に最もコスパがいい!」ということでは決してないということです。そこよりも強い価値へのコミットがなければ、それは単なるプレゼントキャンペーンと変わらないのです。

もちろん今後の展開を追っていくことは必要ですが、これは広告ではないというよりは、進化路線の上にある広告の新しいかたちではないかと考えます。ともあれ、歴史的な出来事であるのは間違いなく、ここでの考察も試論的であることは了解いただければ幸いです。

日本だからこその「賛否両論」

最後に。今回の賛否両論の背景には、お金や社会貢献にまつわる日本的な価値風土と、ツイッターというアメリカ的なプラットフォーム、自らの財力で社会を良くするために動くアントレプレナーシップとのかみ合わせの悪さが関係しているでしょう。

1億円お年玉プレゼントが単なる抽選ではなく、世の中を良くしようとする意図を持った再配分的なアクションであることから、前澤社長は後者に立脚していると捉えられる一方で、多くの人は前者に立脚して判断している面があり、それが一筋縄ではいかない理解の溝を生んでいるのではないかと思います。

しかし、前澤社長は1月13日に新しい取り組みをツイッター上で宣言し、海外での心臓移植実現を目指して募金活動中の3歳児への支援をスタートしました。



今後も同様の取り組みをすると述べていた通りです。やはりこの件をめぐっても上記のような対立が見られているように感じます。SNSをどう使うかをこえた、社会の変化を兆す動向として、引き続き注目していきたいと考えます。

なお、ここまで縷々述べてきましたが、かくいう僕自身もちゃんと1億円お年玉プレゼントには応募しており(笑)、そのときには下記のように実際に書いてRTしました。



残念ながら当選ならずでしたが、これ自身は僕も考えたいと思っているテーマであることには変わりなく、本稿はその「ビジョナリーな経営者がSNSを使いこなすことの意義を解明する」ことの一歩目だということにしたいと思います。

連載:SNSマーケティングを社会学的に考える
過去記事はこちら>>

参照*1:https://news.careerconnection.jp/?p=65332
参考*2:https://news.yahoo.co.jp/byline/tokurikimotohiko/20190107-00110412/

文=天野 彬

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