ビジネス

2019.01.15

ZOZO前澤氏の1億円お年玉は「コスパの良い広告」でも「広告の終わり」でもない

ZOZOの前澤友作 代表取締役社長(Getty Images)


その考え方をもとに敷衍(ふえん)するならば、今回フォローした人々と前澤社長/ZOZOとの間でのリレーションはしっかり築かれたのか、今後もっとZOZOを使うようになるのか、それが検証できなければ「1. コスパのいい広告だった」かは分からないし、「2. 広告の終わりを告げる」ような有効かつ再現性のある手法かは決定できないはずです。

私たちのコミュニケーションには、話題になること以上の深みや難しさが常に問われているのです。

……と私見を固めていたのですが、当選者に関するニュースを聞いて、さらに議論を前進させる余地があるのではないかと思いました。次に、その話をします。

単なるバラマキを超えて:ブランドアクションの視点

そのような祭りの中で、前澤社長1月8日に当選者へのDM配信を開始し、配り終えたことを報告しました。

もちろん誰が当選したのかはわかりませんが、そのうちの何人かは当選したことを自らツイッター上で報告しました。それを追った記事によれば、アイコンが実写であったり、身元が分かるようなプロフィールだったり、100万円を何に使うのかという夢をアピールしていた人に渡った傾向があるようです。その真偽は確かめようがないですが、ここではそれを前提に話を続けたいと思います。

つまり、これは宝くじのような純粋な「抽選」ではないということです。そうではなく、前澤社長自身の「月に行く」と同様の夢を表現した人を選ぶ、ある種の「選考」だったと捉えることができるでしょう。ここに、明快な前澤社長/ZOZOの社会へのメッセージ性を読みました。

今回は、あくまでも前澤社長個人の取り組みであるように思われる一方で、元ツイートを確認すると、ZOZOTOWN新春セールが史上最速で取扱高100億円を突破したことに触れつつ、その日ごろの感謝としてポケットマネーを出すという論旨になっています。そして、そもそも両者を完全には隔て難いところが創業社長ゆえの特徴でもあります。

その意味では、「前澤社長/ZOZO」という「個人/法人」が主体となったメッセージ発信の手法だったとも言えるでしょう。

広告コミュニケーションの領域では、数年前から「ブランドアクション」といった考え方が提唱されています。それは「From say to do」といった言い方でも表現されます。従来のようにブランドはメッセージを広く伝えていくとともに、それに沿った行動や施策もあわせて進め情報発信していくことで、ブランドと生活者との絆をより分厚いものにしていこう、生活者への約束を示していこうという考え方を指します。

例えば、自動車会社が環境に優しい自動車を発売する際に、その機能を伝えると同時に、生活者を巻き込む環境保全プロジェクトを立ち上げること。あるいは食品会社が商品をつくるための素材から有機的につくることにコミットするなどです。CSRを重視する企業活動の拡がりと連動した、コミュニケーション上のシフトともいえます。

それを踏まえるならば、今回の1億円お年玉プレゼントはブランドアクション的な新しい広告活動だったと言えないでしょうか。

ZOZOは、2018年7月に創業20周年と社名変更に伴う「新生ZOZOビジョン発表会」を開催し、「Be unique, Be equal.」という新しいタグラインを発表していました。この発表会ではZOZOスーツの動向に注目が集まりましたが、僕はこのタグラインの普遍的なメッセージ強度に感銘を受けていました。


あえて紐づけるならば、ここに今回のような夢を表出する場をつくること、そしてそれを後押しすることとの一致性を見いだせるでしょう。人が最もそのユニークさを発揮するのは、その人が夢を追ったり叶えたりする瞬間だと思うからです。
次ページ > 運試しでなく、夢を発信する機会

文=天野 彬

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事