キアグレッシブにデザインに取り組むジョルジオ・アルマーニ
新しい「美」を見出す革新的アイデアの源泉
アルマーニはまた、常に最先端のマーケティングやコミュニケーションを模索し、切り拓いてきた。『アメリカン・ジゴロ』をはじめとした映画俳優や、アーティストへの衣装提供を始めたのもアルマーニだ。新聞広告や街頭広告、オートクチュール初のコレクションのインターネット放送など、それまでにない革新的な手法で業界を牽引してきた。こういったアイデアはどのように生まれたのか。
「多くの方々に、アルマーニは時代を先取りしていると感じていただいています。これは、現実社会を観察し、何が変わってきているのかを見極める能力と結びついていると思います。
たとえば、ハリウッドスターとのコラボレーションは、私自身、一定のニーズが必要になってきていると認識した上で生まれました。当時、俳優や女優がカメラの前に頻繁に出演するようになりましたが、いつも正装というわけではありませんでした。私は彼らがセットの外でも安心していられるようにお手伝いをしました。それは『美』というものが移り変わる大きな瞬間でした。
ハリウッドはもはや、黄金時代のきらびやかで魅力的な存在であろうとはしていませんでした。むしろ、新しいシンプルさを追い求めていたんです。それは私が考える、洗練されていて、パーソナルで、ケバケバしくしないファッションに合っていました。
『エンポリオ アルマーニ マガジン』という雑誌を創ったのも、また別の『実験』でした。若い世代がファッションとスタイルの雑誌を楽しみ始めた時期にちょうど始まり、エンポリオ アルマーニのマーケットには最も適した媒体でした」
多角化戦略とブランド・コントロール
イタリア・ミラノにある、アルマーニ/カーザのブティック。ジョルジオ・アルマーニのビジョンと哲学に即した家具やインテリアのコレクションを扱う魅惑的な空間
ファッションにとどまらず、ホテル、家具やインテリア、飲食など、まさに「衣・食・住」のあらゆる分野に進出、いずれも成功を収めてきた。
「アルマーニの世界の強みは、その一貫したスタイルとともに、そのラインの多様性です。 私の目標は常に、ファッションを超えて様々な分野に挑戦することによって、私の美的ビジョンと哲学を表現できる完璧なライフスタイルを創り出すことでした。カフェ、レストラン、インテリアデザイン、ホテルは論理的で、段階的な事業展開といえます」
通底した世界観があるからこそ、着実に、かつスピード感をもって多角化が実現できたのだ。
他方、どんなハイブランドでも、ブランド・コントロールは難しい。アルマーニは自身の名を冠したハイエンドラインからカジュアルラインまで幅広いラインナップを生み出し、多くのブランドを並走させてきたが、2018年春夏のコレクションからアパレルのブランド区分を見直した。アルマーニの中にある数々のブランドをジョルジオ アルマーニ、エンポリオ アルマーニ、A|X アルマーニ エクスチェンジの3ブランドに統合したのだ。その狙いはどこにあるのだろうか。
「世界の市場はますます競争が激しくなり、常に変化しています。私はただ座って変化している様を見ているのではなく、自分のブランドをシンプルにするという行動を起こしました。これによって、ブランドの個性を明確にし、強化させるだけでなく、それぞれを定義づけたのです。
ブランド再編によって、エンポリオアルマーニは、衣類の『コンテナ』であり、どこでもどのようにでも使えるアクセサリー、という元来のポジションに戻りました。このブランドは、最先端のスタイルと独特の品質、すなわち実験と絶え間のない進化を維持していきます。より広範な方々に提供できるようになりますし、顧客はより幅広く、かつクロスカッティングになっていくでしょう」
懸命に育ててきたブランドを再編するには少なからず痛みが伴う。変化を恐れず、時代を予測し、柔軟に対応する。大きなジャッジである。
未来を正しく見極める秘訣とは──。
「トリックや近道があるとは思いません。挑戦し、美しいものを提供し、自分らしくあり、自分のビジョンを信じ、批判や攻撃に屈しないことです。こうして、私は信じるに値する、持続的な、それでいて気まぐれで常に移りゆく社会に馴染むことのできるスタイルを確立してきたのです」
ジョルジオ・アルマーニ◎世界有数のファッション&ライフスタイル・デザインメゾン、アルマーニグループの社長兼最高経営責任者であり、ジョルジオ・アルマーニ社の単独株主。ジョルジオ アルマーニ、エンポリオ アルマーニなど幅広いブランドのもと、アパレル、アクセサリー、化粧品、家具などの商品のデザイン、生産、流通、販売を世界的に手がける。