日本へは月に1回のペースで訪問し、ITベンダー同士の投資、買収、ジョイントベンチャー、業務提携など、広く日米間のクロスボーダー事業を20年以上務めました。
この20年間、日米間の往復を通して、日本と米国のIT市場の温度差をずっと見てきました。これからの一連の記事は、この長い期間で感じてきたこと、ITに対する考え方や具体的な取組みの日本と米国とのズレ、そしてその根本的な要因が何なのかを分析しつつ、よりグローバルなレベルに日本のITの底力を持ち上げるための努力や取組みを提案していきます。
表向きに見えるトレンドを異なる角度で見たり、IT業界における日本社会固有の文化を、(日本人として)中から見た場合と、(長年米国のIT業界で過ごした人間として)外から見た場合の違いについて分析します。少しユニークな視点ではありますが、今までとは少し違った感覚で楽しんでいただければと思います。
表向きに見えるトレンドとその課題
まずは日本におけるIT業界の市場を俯瞰的に見るところから始めましょう。市場動向は「トレンド」という言葉でよく表現されますが、最近多数登場してるトレンドを表すキーワードに共通している意味、日本としてこれらのキーワードの本質的な意味を解釈する上で市場構造的な課題について分析してみます。
キーワード氾濫の市場
日本市場はIT業界に限らず、諸外国から入ってくる新技術やトレンドを特定のキーワードで表現するパターンが極めて多いと言えます。もちろん、欧米もその傾向はありますが、日本の場合は外国語(主として英語)のキーワードがカタカナでそのまま入ってくることが多いため、本質的な意味があまり知られないまま、先に市場に広がっていく傾向があります。
2018年の自分の周辺のIT業界を賑わしたものとして、思いついただけでも次のキーワードが出てきます。
・クラウドネイティブ
・マイクロサービス
・DevOps
・コンテナ技術
・AI/マシンラーニング
・ビッグデータ/分析/可視化
・OSSビジネスモデル
それぞれ、欧米では数年前から話題になっていたキーワードで、日本市場においては最近(特に2018年)になって、多くの記事で取り上げられるようになりました。
いずれも、ソフトウェアの開発/運用環境に関する技術やコンセプトを表し、欧米では先進的なインターネット企業群と称される、GAFA (グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)やFANG(フェイスブック、ネットフリックス、グーグル)等に代表される企業において積極的に投資、導入しているものです。
いずれも日本では話題になりつつも、実際に普及するのが遅いのも特徴です。その要因の一つとして、各技術が本質的に「どのような課題を解決しようとしているのか」を追求せず、その技術の「機能の理解に注力しすぎている」点が挙げられます。