神戸市が採用に「デザイン・クリエイティブ枠」を設ける理由

クリエイティブディレクターの天宅正氏(左)と平野拓也氏(右)


ユネスコから「デザイン都市」に認定された神戸市は、既にデザインの専門家を「クリエイティブディレクター」として雇っている。週3日の勤務だが、デザインのプロが一般職員らと机を並べている。

彼らの仕事は主に、年間100件を超える、市役所関連のポスターやウェブサイトなどへのアドバイスをすること。制作そのものを任せるのではなく、共に仕事をすることで、市職員のデザイン・リテラシーを高めることがその狙いだ。

2017年6月にクリエイティブディレクターに登用された天宅 正氏は、東京藝術大学大学院デザイン科を修了したあと、デザイン会社に入社。2016年から自ら事務所を経営している。同氏は職員をみていると「見た目のデザインやコピーの力を過信しすぎている。本当はその前が大事だ。何を載せるべきかという取捨選択ができていない」と話す。アドバイスをしても、その職員は理解するが、上司の説得に失敗し、小手先でしか対応できない事例も経験したという。

一方で、彼らの活動が市役所内で広く知られると、観光や企業誘致といったPRが肝となるセクションだけでなく、ゴミ収集や福祉といったこれまでデザインを意識しなかった部署からの相談も増えるなど、プラスの影響は広がっている。

組織のDNAを変えるために

では、なぜそのような外部の専門家が効果を発揮しているにもかかわらず、新たにデザイン・クリエイティブ枠を設けたのか。

それは、クリエイティブディレクターを外科手術のように特定の部署に刺激を与える存在だとすると、「デザイン・クリエイティブ枠」で採用する職員は、漢方薬のように、時間をかけて組織全体を変える力を秘めていると考えたからだ。

天宅氏は「クリエイティブな人材には、コンテストでガンガン勝って、キラキラしたヒーローを目指すのではなく、社会の役に立ちたいと思う層がかなりいる」と話す。そうであれば、これまで公務員を仕事と考えていなかった人材の掘り起こしにつながりそうだ。

やがて10年、20年が経つと、職員全体が多様化し、一皮むけていくに違いない。そう考えると、組織全体を21世紀型に変えようする、神戸市の決意とビジョンを垣間見ることができる。

連載:地方発イノベーションの秘訣
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文=多名部重則

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