イノベーションで連想される技術革新に関しても、AIの進化で人間の仕事が奪われるといったネガティブな議論も出ています。
このコラムは、本来前進であるべき「イノベーション」を偉大なイノベーターと語り合いながら異なる視点で再考し、昨今の斬新奇抜なイメージの先を行くという意味で「Innovation and beyond」というタイトルにしました。
最初にご紹介したいのは、元NHKの伝説的プロデューサー、湊剛さん。歌謡曲全盛の70年代にラジオ「若いこだま」「サウンドストリート」といった革命的なラジオ番組を生み出し、欧米のロックを日本の若者に紹介し、大きな影響を与えました。「みんなのうた」のプロデューサーとしても有名です。
現在よりさらにお硬いイメージだった当時のNHKで、なぜ画期的な番組を生み出すことができたのでしょうか。湊さんのキャリアから「Innovation and beyond」のスピリットを見出していきましょう。
自由な人選が画期的な番組を生み出した
湊さんは1944年生まれ。エルヴィス・プレスリーから大きな影響を受け、ロックにどっぷりと浸かりました。1956年にNHKに入局した後も、音楽番組を手がけたいという強い気持ちを持ち続けたといいます。
そんな湊さんに転機が訪れたのは1970年。「若いこだま」というラジオ番組の担当するようになったことでした。
「僕は当時、教育局という部にいたんだけど、そこでは『若い人たちに受けるような新しい考え方を持つオピニオンリーダーを探せ』というのがミッションだったのよ。探し方はとにかく自由。型にはまったオーディションもないから、自分の好きな人とか、センスのいい人とか、感受性豊かな人を見つけるんだ」
そこで湊さんは、「音楽、小説、映画といった表現の文化から探そう」と考え、自分の肌で感じるためにライブハウスへ行ったり、安い酒場に飲みに行ったりして、若者たちが集まっている所で語り合ったといいます。
「自由に出演させる人を選べたのが、画期的な番組を制作できた一番の理由かな。当時、特に印象的だったのはデビューしたての矢野顕子さん、それから荒井由実さん、上田正樹&サウス・トゥ・サウスの上田正樹さん、甲斐よしひろさんといったところかな。荒井由実さんは『ひこうき雲』のデモテープを聴いて選んだんだよ。あと映画界では、若かりし頃の桃井かおりさんだね」