「スピード重視の時代において、ゆっくり進むことほど人を活気づけるものはない。わたしはそう思い始めていた。なにかと気が散りがちな時代において、物事に集中することほど贅沢に感じられるものはない。そして、絶え間ない移動の時代において、静かに佇むことほど大切なものはないのだ」(ピコ・アイヤー)
この言葉は、私の心の奥深くに響いた。私は妻のブリジットが他界してからの1年半の間で、より深くてゆっくりした新しいリズムを見つけた。起業家で企業役員の私はこれまで常に、できる量よりもはるかに多い仕事を抱えている状態だった。特に私の働いていた広告業界では、仕事狂とも言える風潮がある。当時の私は、走っているのにどこにも向かっていないように感じていた。
しかし、それが変だとは感じなかった。周りが全員、同じことをしていたからだ。あらゆる形で人々がつながり、自己主張にあふれたこの世界で、私はなぜか、自分にとって大切なもの全てについて情熱を失い、距離を感じていた。私は、池の水面を跳ねる石になっていた。
双極性障害を患っていた妻の苦しい闘病生活と、その後の自殺により、私は深い悲しみと無力感に包まれた。回復に何年もかかるだろうが、これは自分を見つめ直す機会ともなった。ブリジットのそう状態は病気によって引き起こされていたが、振り返ってみると、妻の熱狂状態は私の昔の仕事環境と似ていたように思う。
常にスイッチが入り、つながっている状態だ。シャットダウンの前には常に、することがまだ10個残っている。仕事を終わらせるため高速で走り抜けながらも、良い体裁を保っている。
私が悟ったのは、世界に変化を起こすためにはスピードを落とさなければならないということ。やることを減らし、より深くて有意義な人間関係を作り、より少ない人々とつながる。そしてスイッチを切り、ただ佇む。