シネマの女は最後に微笑む

映画「百円の恋」主演の安藤サクラ(Photo by Emma McIntyre/Getty Images)

年明け早々から、西武・そごうのCMが炎上した。ポスターは、顔にパイをぶつけられた女のバストショットに、「女の時代、なんていらない?」のキャッチコピー。あたかも女性を貶めているようなイメージの写真と、女性をエンパワメントしているのかどうかよくわからない、迷走した文面。

動画を見て、パイを投げつけられている女性を演じているのが安藤サクラとわかる。飛び交うパイの中で彼女が倒れ、最後に顔にぶつけられたそれを拭ってこちらを見るという映像。そこに安藤自身の声でコピーが重ねられている。ポスターより幾分はましな印象はあるのの、やはり曖昧さは拭えない。

かつて「女の時代」という言葉を宣伝に使い、率先して「女の時代」を謳い上げた西武だが、今の時代感覚を捉えようとして失敗したのは、女性をめぐる状況が40年前に比べて一層錯綜し、複雑なものになっているという背景もあるだろう。

安藤サクラを起用するなら、パイを投げつけられて中指立てる、ファイティングポーズを見せるくらいのことをさせてほしかったという声もあったようだ。

それで思い出されたのは、彼女がボクサーに挑戦した『百円の恋』(武正晴監督、2014)。第39回日本アカデミー賞・最優秀主演女優賞をはじめ、数々の賞に輝いたこの作品で、安藤サクラは女優として唯一無二の位置を獲得した。

「人生を投げている」女

冒頭、安藤の演じる斎藤一子の、呆れるほどだらしない日常のリアリティに、思わず引き込まれる。足を載っけたテーブルの上にはワンカップや菓子類の袋が乱雑に置かれ、何日も着替えていない感じの部屋着に、半年は美容院に行ってないことがわかるくしゃくしゃの髪。32歳、引きこもり生活はそこそこ長そうだ。

母親が切り盛りする弁当屋の惣菜をつまみ食いして叱られると、歩道にある他人の自転車を勝手に借りて百円ショップに行き、菓子類を買いあさる日々。半分黒い地毛になった長い茶髪を乱し、背中を丸めてノロノロ自転車を漕ぐ姿は、ほとんど「人生を投げている女」だ。

家の中で、無職の父親の影は薄い。最近子連れで家出してきて弁当屋を手伝う妹の二三子は、毎日寝て食べる他はゲームをしているだけの姉のふてぶてしい態度に苛立ち、母の甘やかしを責める。

ある朝、不穏な空気の中で始まった姉妹の厭味の応酬は、ついに取っ組み合いの激しい喧嘩に発展、耐え切れなくなった母が「どちらかが出て行きなさい!」と悲鳴を上げ、ついに一子は家を出るはめに。

何とか古いアパートを借り、いつも行っている百円ショップに面接に行き、深夜から朝の時間帯で働くことになる。

文=大野左紀子

PICK UP

あなたにおすすめ

合わせて読みたい