野球かアメフトか 異例の「二刀流」をめぐる身長問題と契約金

大学フットボールの年間最優秀選手賞であるハイズマン・トロフィーを受賞したカイラー・マレー(Debby Wong / Shutterstock.com)

大学フットボールの年間最優秀選手賞であるハイズマン・トロフィーを受賞したカイラー・マレー(Debby Wong / Shutterstock.com)

大リーグは、2019年、大谷翔平に続く「二刀流」の入団で沸いている。ただし、投打の二刀流ではなく、野球とアメフトの二刀流だ。

もちろんどちらかを選ばねばならないわけだが、それぞれのスポーツファンの思惑が重なり、「彼こそ野球をやるべきだ」「いや、彼をアメフトに引っ張らなかったらアメリカの損失だ」と、かなり熱い議論が展開されている。

選手の名前はカイラー・マレー。アメフトの名門、オクラホマ大学の学生で、クォーターバックで活躍し、先月の12月には大学フットボールの年間最優秀選手賞であるハイズマン・トロフィーを受賞した。紛れもないトッププレイヤーだ。

ところが彼は、同大学の野球部にも身を置き、センターを守り、昨シーズンも約3割の打率と10本塁打の成績を引っ提げ、去年の6月、早々と大リーグのオークランド・アスレチックスにドラフトで指名され、契約を交わしている。

なので、進路を野球に絞ったと一度は思われた選手だったが、アメフトのハイズマン・トロフィーを獲得したことで、「もしかしたらアスレチックスを蹴って、アメフトに行くのでは?」と、周囲がざわめき出したという経緯だ。

かつて、バスケットボールの神様、マイケル・ジョーダンが、1度目の引退の後に、シカゴ・ホワイトソックスに入団したことがあったように、他のプロスポーツとプロ野球の二刀流は例がないわけではない。しかし、あのジョーダンでさえも、野球ではマイナーリーグにとどまったままで、結局、メジャーには昇格できなかった。

ハイズマン・トロフィー受賞者でありながら大リーグで活躍した二刀流の選手は、過去にはボー・ジャクソン(2つのプロオールスターゲームに出場した伝説の選手)を含めて2人しかいないという至難の挑戦なのだ。

プロフットボール「身長180センチ」の壁

今回の件で、日本の感覚からすると、違和感を抱くことがいくつかある。まず、アスレチックスが6月に契約を交わしたあとも、マレーにフットボールを続けさせたこと。フットボールの怪我のリスクを考えたら、契約の条件としてフットボールへの出場は認めないということが普通なのではないかと思う。

また、3割で10本塁打は立派な成績だが、それでも全米一であるハイズマン・トロフィーの栄光と比べると見劣りする。つまり、生涯獲得金でいけば、アメフトを選んだほうがずっとお金になるという判断が働くはずなのに、早々とアスレチックスと契約したことだ。

契約内容や本人の判断プロセスは、当事者しかわからないので、あくまで推測だが、ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、マレーの「身長」(178センチ)が問題となったのではないかと、大きく紙面を割いて分析していた。身体の大きさがパフォーマンスにもろに影響を与えるアメフトでは、身長と成績のデータが揃っていて、身長180センチがプロになる最低ラインという暗黙の了解があるのだ。
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文=長野慶太

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