なぜ高級車のボンネットは長いのか クルマのデザインを考える 

1905年の「モーターハンサムキャブ」。ハンサムキャブとは馬で引く馬車であり、タクシーとして使用さ れた。キャビンに客を乗せ、運転手は車両後方上部で運転するスタイルは馬車のそれを踏襲。7〜9馬力と言われるボクスホール製のこの車両は、馬車から自動車への過渡期そのものを表している。


「自動運転」では、まずその実現可能性からお話ししたいのですが、僕は「みんなができたらいいなと思っているのでやがて実現する」と思っています。会話をしながら、お酒を飲んで寝ていても、家に勝手に着いていたらいいなと、多くの人が思っている限り必ず実現します。電動化などの社会正義的側面の強い技術よりも圧倒的に大きいモチベーションがあるからです。

自動運転技術のレベルが低くてもうまく街にインストールするアイデアを考えるのもひとつのステップです。バス会社が撤退した過疎地で、万が一、人とあたっても大怪我をしないような低速で小型の自動運転バスが周回するとか。

そして自動運転といえば、車内をどう変えるのかということも大きなトピックです。自動運転により最も変化するのは「車内での過ごし方」だからです。自動車では運転するための装置がインテリアに占める割合が比較的大きいのですが、それらがなくなったとき、咄嗟に思いつくものがリビングルームしかないというのが現状です。しかし、僕は移動空間としてクルマを捉えるなら、家や部屋を単純にリファレンスすればよいというものではないと思っています。


rimOnO(2016)
2016年5月に発表。発泡ウレタンのやわらかいボディ。外装は着せ替え可能な布製で、電動自転車のような交換バッテリーで動く。全高1.3mの2人乗り。小型で利便性の高い乗り物を必要とする人のための新たな移動手段を提案する。


例えば、みんなが内側で向かい合わせになるのではなく、外側を向くというのも面白いかもしれません。ARにより、いま走っている場所の情報が窓に表示されるなど、移動によってしか得られないことを考えたとき、いろいろなことが新しくデザインできるのではないでしょうか。

最後のテーマが「多様化」です。これまでのお話しでも出てきましたが、はっきり言えるのは自動車というのは非常にフォーマットがリジッドなプロダクトである、ということです。最初にお話しした「高級車」がその最右翼ですが、いま、小さい子に自動車を描いてもらうと、たいがいの子はミニバンを描くんです。自動車と言われたときに思い描く範囲が狭いように感じます。

そうじゃないものもいろいろあっていいよね、と思うんです。例えばWHILLの杉江さんがやっている電動車いす型パーソナル モビリティや、サンフランシスコで市民権を得つつある電動スケートボード、各社が検討を進めている自動運転バスなど。

一人乗り超小型EVとか、自動運転のコミュニティバスみたいなものの議論では、「そんなものが街なかを走っていたら危ない」という話になりがちですが、乗り物には適する場所というものがあるんです。最適な乗り物を最適な場所で走らせる。ここの多彩さが足りていない、つまりデザインされていないことが現状だと思っています。

モビリティを考えることはコミュニティーを考えることなんです。人が住まうこと、移動すること、人や場と出会うとはどういうことなのか。

乗り物をデザインすることは社会をデザインすることと一体であるべきだし、すべての人に最適な移動を提供することにこそ、モビリティが多様化する意味があると思っています。

その中には高級車やスポーツカーがあってもいいし、パーソナルモビリティや自動運転車があってもいい。でも突き詰めたら、どうやったらすべての人が自由に楽しく移動できるんだろう、その一点に尽きると思います。


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#1|なぜ高級車のボンネットは長いのか クルマのデザインを考える 
#2|世界一美しいクーペ──BMW フラッグシップクーペ 8シリーズ
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#4|「音速の貴公子」 彼の名を冠した、史上最高スペックのマクラーレン アルティメットシリーズ

文=青山鼓

この記事は 「Forbes JAPAN 世界を変えるデザイナー39」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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