トランプによる大統領選出馬計画が本格化した2014年、当時のトランプの政治的腹心のひとりに、コンサルタントのロジャー・ストーンがいた。
「トランプ陣営にとって、不法移民問題に国民感情を操作する力があることは明白だったため、顧問らは注意散漫なトランプをメッセージに集中させる方法について議論した」。ジョシュア・グリーンは著書『バノン 悪魔の取引: トランプを大統領にした男の危険な野望』でこうつづっている。「彼らには策略、記憶術が必要だった。そして2014年夏、良い秘策を見つけた」
ジョシュア・グリーンは、ストーンと共に働いていたサム・ナンバーグを含むトランプ陣営関係者との強い人脈を持っていた。ナンバーグは「ロジャー・ストーンと私は『国境の壁』というアイデアを思い付き、スティーブ(・バノン)に提案した」と説明。「彼(トランプ)に移民について語らせるための策だった」と語っている。
「トランプは当初、壁のアイデアに関心がないようだった」とグリーンは書いている。「しかし2015年1月、トランプはデービッド・ボッシーの団体『シチズンズ・ユナイテッド』主催の選挙集会であるアイオワ・フリーダム・サミットで、これを試してみた。ナンバーグによると、『トランプが公約のひとつとして壁の建設を宣言すると、会場は大いに沸いた』という。このコンセプトに乗り気になったトランプはひと呼吸置き、次の一言を加えて観衆をさらに熱狂させた。『トランプのように建てられる人間は他に誰もいない』」
ロジャー・ストーンとサム・ナンバーグはいずれも政治コンサルタントだったが、いずれも移民政策、特に米国への不法入国抑制という複雑な問題に関する専門知識があるとは標ぼうしていない。両者は支持者を集める一方で、論争も巻き起こしている。例えば2018年12月、ストーンは訴訟和解の一環として、アレックス・ジョーンズの番組『インフォウォーズ』で「うそを広めた」ことを認めている。