ビジネス

2019.01.10

伸びるサービスほど、徹底したカスタマーサクセスがある──国産SaaS企業の裏側

HiCustomer 鈴木大貴


 
HERP 庄田一郎

また、ユーザーに喜んでいただいたり、嬉しいリアクションをいただいたことなど、メンバーが努力して獲得した“サクセス”について、「#カスタマーサクセス・ユーザー・ハッピー」という社内チャンネルでシェアし、みんなでスタンプをつけあっている。こういった喜びの共有を積み重ねていくことが大切だと思っています。

鈴木:いいですね。中尾さんはいかがですか?

中尾:“Like”ではなく“Love”をつくるよう心がけていますね。「なんでこんな機能にしたの?」「こういう機能がほしいな」といった本当に役に立つ意見をくれるのは、サービスのことを本当に愛してくれているユーザーなんですよ。

つまり、Loveのユーザー数が多ければ多いほど、プロダクトマーケットフィットする速度が向上していく。SaaSを育ててくれるのは、Loveのユーザーなのではないでしょうか。

鈴木:庄田さんがさきほどおっしゃっていた「#カスタマーサクセス・ユーザー・ハッピー」も、まさにそのための取り組みですよね。

ユーザーを導くエゴをもて

鈴木:続いて、国内でSaaSをさらに普及させるためには何が必要だと思いますか?

庄田:「カスタマーサービス」、つまりはお客様の業務プロセス改善をもっと生み出さなければならないということに尽きますが、そのためには「エゴ」も必要だと思います。

SaaSはユーザーの要望を満たしていくことで健全に進化するという話がありました。しかし、そのためには「どんな体験を提供すべきか」という点を、プロダクトオーナーが判断して、ユーザーや社内メンバーにも伝えなければなりません。

中尾:エゴはとても重要です。本当に良いサービスをつくるためには、ユーザーの声に耳を傾けるのが正解とは限らない。それでは顕在化されたニーズしか捉えることができません。

顕在化していないニーズまで満たすためには、プロダクトオーナーが強固な理想像をもってプロダクトを設計しなければならない。エゴはそのための重要な要素です。

鈴木:サービスの未来を描くのは、プロダクトオーナーにしかできないことですからね。

中尾:顧客目線をもつために、カケハシではまずメンバーに元薬剤師を入れています。採用の時点で顧客目線を担保して、その上で業界の未来を考えている。

一方で、経理なども含めて全社員に定期的な薬局見学も義務付けています。きちんと現場感を持ち合わせた上で、さらにエゴを働かせなければ、本当に顧客目線に立ったサービスはつくれませんからね。

ユーザー同士のコミュニティが、サービスを進化させる

鈴木:SaaSサービスを運営していると、上手にサービスを使ってくれているユーザーがいる一方で、そうでないユーザーもいると思います。よく悩むのは、使いこなせていない方々をどうやって引き上げていけばいいのかということです。

良いサービスの使い方をほかのユーザーにも広げるためには、何をすべきなのでしょうか。

中尾:ユーザー同士がコミュニケーションをして、良いところも不満も共有してもらうのがいいかもしれませんね。

鈴木:自社がどのようにサービスを使っているのかを発信したかったり、あるいは他社がどんな風にサービスを使っているのかを知りたがっている人は多いです。

特に熱心なユーザーほどプロダクトの良いところ、悪いところをしっかり分かっている。カスタマーサクセスが生まれていることを広める機会としても、ユーザー会はとても有効ですね。

庄田:ユーザー会とはちょっと異なりますが、鈴木さんはSaaSに興味をもっている人のFacebookグループを運営していますよね。それを見習って弊社では、週に1回ほどHERPのSNSアカウントでサービスの改善状況に関する情報発信をしています。

鈴木:うちでは今度、ユーザーが自発的にユーザー会を開くそうなので、飲食費を出すなどの支援をしていくつもりです。

庄田:すごい。ユーザーが自発的にオーガナイズしてくれるのは理想的ですよね。

中尾:医療業界では学会を開いて自分たちが患者さんにとったアクションが正しいのかを話し合う機会があります。その中でMusubiを導入した結果を話し合ってもらったことがあります。

ありがたい反面、これからは僕ら主導でこうした会を開くべきだと反省もしています。今後は積極的にユーザー会を実施し、課題や上手くいった事例など共有頂く場にしたいですね。。

鈴木:ありがとうございます。カスタマーサクセスを実現するためにはユーザーの声を丹念に聞かなければならない一方で、時にはそれを無視する「エゴ」でサービスの方向性を打ち出さなければならない。

さらに、ユーザー会などでユーザー同士が意見を付き合わせる場をつくれば、より有機的なネットワークができるということですね。こうした知見が国内SaaSの発展に寄与できれば何よりですね。

今日はお忙しいところ、ありがとうございました。

文=野口直樹 写真=小田駿一

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事