ビジネス

2019.01.04

課題追及が生んだ初の労務クラウド | SmartHR #日本のスタートアップ図鑑

SmartHR 宮田昇始

すべての時間を価値ある仕事に──。宮田昇始が率いるSmartHRは、日本の人事労務部門の働き方に変革をもたらそうとしている。同社が手がけるのは、これまでマンパワーで行っていた労務管理を効率化する初のクラウドサービスだ。

人事系ソフトは数多あるが、従来は給与計算や勤怠管理をテーマとしたものがほとんど。雇用保険や社会保険、年末調整などに焦点をあてたものはなかった。紙に記入して、判子を押し、役所で手続きしてと、乱雑で誰がやっても変わらないペーパーワークをなくす「SmartHR」は、人事部門が経営に貢献するための戦略的な活動に専念できる環境を実現する。

過去の経験が生み出すきっかけになった。実は、同社にとって「SmartHR」は3つ目のサービス。最初の2つは、どちらも鳴かず飛ばずの結果に終わった。

「理由は単純で、ニーズがなかったから。ここで課題を追求する重要さを知った」

教訓を得た宮田はその後、複数のサービスを企画する中で、労務に多くの課題が潜む感触を掴んだ。ある日のことだ。帰宅すると、我が子を身籠もる妻が、難しい顔で書類に向き合っていた。聞けば、会社の都合上、産休・育休の行政手続きを自前でやる必要があるという。だが、書類と睨めっこが続き、筆は進まない。

思い返せば、宮田が顔面麻痺などの症状に悩まされる難病を患ったときもそうだった。社会保障制度の一つである傷病手当金の手続きがとても難しかったのだ。

「どうして社会保険の手続きは不便なのに、効率化するツールがないのだろう」

課題を発掘した瞬間だった。着想を得た宮田は、その後200社の人事部門へヒアリングを実施。どの企業も、労務に共通する悩みを抱えていることがわかった。

こうして開発した「SmartHR」は、2015年11月の販売開始からこれまでに約1万7000社の顧客を獲得。現在の解約率は驚異の0.4%を誇る。

今後は「SmartHR」のプラットフォーム化を推進。他社サービスと連携し、多角的にニーズを満たしていく。さらに、宮田は大部分の時間を渋谷の1Rマンションに一人こもり、新規事業の構想を練る。

「世の中にはまだ古くて非合理なものが多くある。みんなが困っていて、解決策がないところを埋めていきたい」


宮田昇始◎2013年1月にKUFUを創業。複数のサービス開発を経て、15年11月にクラウド型人事労務ソフト「SmartHR」の提供を開始。17年4月、社名変更した。

文=眞鍋 武 写真=小田駿一

この記事は 「Forbes JAPAN 日本の起業家」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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