料理と日本酒のペアリングを楽しむ「お燗」という調理法

松茸リゾットとお燗のペアリング

イタリア料理と日本酒が出合う。そのペアリングによって日本料理のような味わいが生まれる。そんな新鮮な驚きを体験ができたのは、東京・青山にあるイタリアンレストラン「Ristorante ACQUA PAZZA」で2018年10月に開かれたイベントだった。

同店の日高良実シェフ総監修のもと、福島県会津地方に縁のある5人のシェフとともに開かれた1日限定ポップアップディナー「aiuto Aizu(アユート会津)」だ。


各席に置かれた亀の尾の稲穂と会津木綿のテーブルナプキン

会津の農産物を使ったイタリア料理と一緒に提供されたドリンクは、ワインだけでなく、なんと日本酒。福島県郡山市の酒蔵「仁井田本家」のお酒がワイングラスやぐい呑みで振る舞われた。

このイベントで、福島県会津若松市にあるイタリアンレストラン「Pizzeria & Torattoria Felice」の矢澤直之シェフがつくった料理のうちの一品に「つちや農園の亀の尾と松茸のリゾット」があった。

福島県は猪苗代町の「つちや農園」が栽培した無農薬・無肥料の「亀の尾」という品種の古古米2キロに対して、会津産の松茸を1キロも投入した香り高いリゾット。これに合わせたドリンクは、同じお米を使って蔵付き酵母で木桶仕込みにした仁井田本家の生もと純米「しぜんしゅO.K」だった。これを熱燗にしてぐい呑みに入れて提供された。


リゾットに使われた会津産の松茸

「料理とお酒をペアリングすることで松茸の土瓶蒸しのような味わいをねらいました」と矢澤シェフ。そのためにも料理も皿も熱燗も65度での提供を心掛けたという。

リゾットは古古米がスープをしっかりと吸いながらも、程よいアルデンテ。松茸の香りが口の中に広がった直後に、熱燗をひとくち。お酒のしっかりとした旨みと甘さと酸味を味わった後も、なお鼻の奥に松茸の香りの余韻が残っていた。たしかに、熱々の土瓶蒸しの出汁を飲んだときのような、どこかほっとする味わいだった。

温めるとアミノ酸の旨味が増強する

日本酒を温めることで料理と合わせやすくなり、新たな味わいが生まれる。この体験によって、以前に聞いた「お燗は料理」という言葉を憶い出し、確かにそうだと実感した。この言葉を教えてくれたのは、東京・恵比寿の飲食店「GEM by moto」店主の千葉麻里絵さんだ。お燗の魅力をもっと知りたくなり、再訪した。


新しいお燗の世界を教えてくれる「GEM by moto」

千葉さんによると、日本酒は温度帯の変化によって楽しめるアルコール飲料。「アミノ酸が多く、温めるとアミノ酸の旨味が増強することは体感的に確実だと思っています。同じように、アミノ酸が含まれている出汁、たとえばみそ汁は冷たいよりも温かいほうが旨みを感じやすくなりますよね。日本酒もお燗にすると、香りが膨らむことも相まって、体感的に旨味などを感じやすくなる」(千葉さん)

ただし、必ずしも「アミノ酸=旨味」ではなく、甘みや雑味、苦み、酸味などさまざまなアミノ酸がある。

「コーヒーはちょっと苦みがあったほうがおいしいように、日本酒も多少の苦みや雑味があったほうが味の奥行きが出ます。でも、コーヒーは冷たいと苦さが際立つ。高い温度は苦みをやわらげてくれるように、日本酒もお燗にすると雑味が伸びやかになって料理と酒の仲を取りもつ“接着剤”になるのです。雑味や苦みも一種の旨味です」
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文=柏木智帆

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