ビジネス

2018.12.30

日米欧で瓦解する「中央銀行の独立性」


ユーロ圏では欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁とイタリアの政権との間で、論争が起きている。イタリアでは減税を掲げる政党と政府支出拡大を掲げる政党の連立政権が誕生、欧州委員会の定める財政規律に違反する予算案を提示している。イタリア政府にしてみると、財政赤字の拡大によって、イタリア国債の金利が急上昇することだけは避けたいところだ。

ECBが18年の年末で、債券購入を軸とする量的緩和の拡大を終了(Taperingの完了)して、来年以降はバランスシートを一定に保つ政策に転換することを公表した。これに対して、ポピュリスト政策を掲げるイタリア政権の副首相が、イタリア人であるECB総裁が、イタリアの「経済環境を毒する」政策をすることは理解できない、と批判した。

これは、二重の意味でドラギ総裁にとっては我慢のならない出来事だ。

第一に中央銀行の独立性に対する公然とした挑戦である。第二に、ECBの政策は、ユーロ圏全体の平均インフレ率を指標として、ユーロ圏全体の利益のために行われるべきである、という不文律への挑戦だからである。ドラギ総裁は、イタリアから批判を受ければ受けるほど政策を曲げるわけにはいかなくなる。
 
翻って日本はどうか。安倍政権、黒田総裁になってから、日本政府から日銀に対して圧力がかかるという場面は見られない。安倍総理も、任命したあとは黒田総裁の手腕に全幅の信頼を置いているように見える。欧米で吹き荒れる中央銀行の独立性への挑戦は全く見られない。

これが、たまたま政府・日銀がそれぞれ「独立に」決める政策の方向が一致しているからなのか、日本では中央銀行の独立性が、制度として欧米よりも強固に根付いたからなのか、インフレ率が2%を超えてくるころまでわからない。


伊藤隆敏◎コロンビア大学教授・政策研究大学院大学特別教授。一橋大学経済学部卒業、ハーバード大学経済学博士(Ph.D取得)。1991年一橋大学教授、2002年〜14年東京大学教授。近著に『公共政策入門─ミクロ経済学的アプローチ』(日本評論社)。

文=伊藤隆敏 ILLUSTRATION BY BERND SCHIFFERDECKER

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