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投資マネーから見た世の中


もちろん、経営トップは多くの重大事項でリスクを取って決断を下さなければならないし、その采配は企業の行く末に多大な影響を与える。経営者の質が企業価値を真に高めているのであれば、妥当な報酬は認められるべきだろう。

しかし、多くの学術研究では、CEOの報酬とCEOが生み出す付加価値との間には有意義な相関性が認められない、という結論に終わっている。特に報酬上位のCEOでは、ストックオプションの比率が極めて高いので、報酬の多寡は企業業績よりも全般的な株式市場の変動、つまりは市場の「運」でほとんど決まってしまうのだ。

「運」だけでトップが自分の何百倍もの報酬を稼ぐのでは、真面目に働く一般従業員はやる気をなくしてしまう。天井知らずのトップ報酬は、組織内のモラルだけでなく、社会全体の格差の問題にもつながる。

強まる株主の監視

問題は、妥当なトップ報酬をきちんと吟味するはずの取締役会が機能していないことだ。経営者の報酬に対して株主が発言権を持つ「セイ・オン・ペイ(Say on Pay)」 は会社法で認められているが、実際には会社側が提示した役員報酬が株主投票で否決されることは米国でさえ極めて珍しい。

そこには世界の大企業の取締役会にCEOをはじめとする経営陣がずらっと顔を並べ、経営の執行者が自分で自分を監督している、という基本的なガバナンス矛盾の現実がある。日産の場合もゴーン容疑者が取締役会の議長を兼任して、実質的に自分で「自分にご褒美」を決めることが出来る状態だった。

とは言え、近年では行き過ぎた役員報酬について、業を煮やした投資家の「反乱」も起きている。

例えば、カジノ大手のウィン・リゾーツ。創業者CEOのスティーブ・ウィン会長が女性従業員に対するセクハラで2018年2月に退任したが、5月の株主総会では8割近くもの株主が会社側の提示した新CEOや重役への多額のストックオプションを含む報酬案に反対票を投じた。

さらに、世界中の投資家に議決権行使をアドバイスする助言機関も目を光らせる。最近ではディズニーのロバート・アイガーCEOやテスラのイーロン・マスクCEOの報酬案に対して、米インスティテューショナル・シェアホルダー・サービス(ISS)やグラス・ルイスがこれに反対するよう助言している。


ディズニーのロバート・アイガーCEO(Getty Images)

業績が不振なのにCEO報酬ばかりが高い企業は、「アクティビスト」(物言う株主)ファンドの格好のターゲットにもなるし、米証券取引委員会(SEC)も、企業が役員報酬を決定する際のプロセス開示を厳格化させている。

特にSECは、2017年からCEO報酬の開示に加えて、全世界の従業員の中間的な報酬と両者の比率(ペイレシオ)の開示も義務づけた。このペイレシオの開示によって企業の「社内格差」が、よりはっきりと目に見えるようになった。

この影響は軽視できない。地方自治体の中にはペイレシオによる社内格差が高い企業に懲罰的な追加課税を科す動きも出ている。消費者運動などが起これば、企業イメージの低下にもつながりかねない。

リーマンショックの反省から、米国では過半数の外部取締役が義務付けられている。日本はまだ一人だ。カリスマ経営者が暴走するリスクを防ぐには、ガバナンスの方をまずパワーアップすることが必要だろう。

連載:投資マネーから見た世の中
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文=小出フィッシャー美奈

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