アンコウの濃厚さを味わう「どぶ汁」 真髄はシメの雑炊にあり

(c) 高田サンコ


アンコウはまな板の上ではぬるぬると滑って切りにくいので、吊るして捌く方法「吊るし切り」ができたのだそう。ベテランの職人さんがサクサクおろしていきます。まずヒレを切り取り、ズバっとズボンを脱がすように皮をはぎ、たぷんとしたお腹を開いて巨大な肝を取り出す。

さらに卵巣と胃袋が出され、エラや身を切り取ると、アゴと骨だけの姿に。ヒレ、皮、肝、卵巣、胃、エラ、身の7つの部位は「アンコウの7つ道具」と呼ばれ、全て食べることができます。

このアンコウの7つ道具を全て煮込んだ料理が「どぶ汁」。もともとは漁師の船上のまかない料理として食べられていたもの。アンコウは水分が多く、水を使わずともスープができるので重宝されたのだとか。なるほど、船上のまかない料理。普通エラや内臓は魚の鮮度を保つために捨てられる部位ですが、抜群の鮮度だからこそおいしくできる料理なんですね。

「どぶ汁」最大の特徴はドンと投入される大量のあん肝。鍋であん肝を煎り、たっぷり出る脂がスープを濁酒のように濁すから「どぶ汁」と呼ばれたのだそう。そしてアンコウのおいしさは、肝の脂のノリにあります。肝には11月頃から脂がのり始め、産卵前の2月頃には最高潮になります。

現在では居酒屋さんから家庭でも楽しめるアンコウですが、傷みやすい魚であることに変わりはありません。それを体感してしまうのが産地で食べるあん肝。目を見張る鮮やかなオレンジ色の脂が乳白色の肝に混ざっています。そして魚の肝であるにもかかわらず、臭みがなくて本来のおいしさが堪能できるのです。この冬、アンコウの実力を試しに北茨城を訪れてはいかがですか?

連載:夢の食べ物
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文=高田サンコ

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