一心に歩むべき道を模索する|CEOの一冊 ジンズ田中仁

山岡鉄舟著 『剣禅話』

各界のCEOが読むべき一冊をすすめる本誌の連載「CEO’S BOOKSHELF」。今回は、一心に進むべき道を探すきっかけとなる『山岡鉄舟 剣禅話』をジンズCEOの田中仁が紹介する。


20代後半、「商売で大きくなるためには、まず、人間をつくることだ」と、税理士の先生が勧めてくれたのが本書でした。きっと、その頃の私は人間ができていなかったのでしょう。

当時、すでに起業し、日々、経験のない事と遭遇する経営者の役割に、大きな不安を抱えていました。同時に、根拠のない自信も持ち合わせ、心の中は説明のつかない感情でぐちゃぐちゃ。その感情を振り払うかのように、毎晩飲み歩いていたのですから。
 
著者である山岡鉄舟は、幕末の、開国から江戸幕府が終焉を迎える時代を生き、自分が信じた「剣」と「禅」の道をただ一心に歩み続けた人物です。歩み続けることで、鋼のような精神力と、誰にも負けない剣の力を身につけて、敵のない世界をつくり出しました。税理士の先生は、「ビジネスの世界も一緒だ」と、私に伝えたかったのでしょう。
 
本書を読んだ十数年後、ファーストリテイリングの柳井正会長にお会いする機会がありました。

経営に苦しんでいた私は、柳井会長が発した「志なき会社は長続きしない」との言葉に、「商売は、売上や利益を生み出すことではなく、その仕事を通して、自分が何を成し遂げたいのかということ。それがない人に、売上や利益が続くはずがない」という意味があることを気づかされました。
 
それから私は、何のためにこの仕事をしているのか、会社がなぜ存在しているのかを考え、鉄舟のように、私が一心に進むべき道を真剣に探し始めたのです。
 
私が立ち上げたジンズは、「Magnify Life(人々の人生を拡大し、豊かにする)」を実現することを使命としています。高価だった眼鏡を低価格で提供することで、誰もが使えるようになったり、目疲れに苦しむ人たちのために、PCのブルーライトをカットする眼鏡も開発したりするなど、新たな市場を創造してきました。

また、出身地の前橋市でベンチャー起業家を育てるための活動や街づくりに関わることにも、自分自身の成長にもつながっていると実感しています。さらに2017年12月にオープンした、最高に集中できるワークスペース「Think Lab」を展開していくことが、新しいモノやコトを生み出そうとしている人たちの力を解放できるはずと、今からワクワクしています。
 
起業して30年。様々な経験を積んだ今、「私の志は、Magnify Lifeだ」と、はっきり答えることができるようになりましたし、これこそが私の「商売道」だと、胸をはって話すこともできます。
 
人は弱く、気持ちが乱されることは多いものです。だからこそ、ビジネスで戦う皆さんには、自分を律してくれる一冊を見つけてほしいと願っています。

title : 山岡鉄舟 剣禅話
author : 山岡鉄舟著 高野澄訳
data : たちばな出版 1080円(税込) 242ページ


たなか・ひとし◎ジンズ代表取締役社長。1981年、前橋信用金庫(現しののめ信用金庫)入庫。87年ジンプロダクツを創業。88年、ジェイアイエヌ(現ジンズ)を設立し、代表取締役社長に就任し、現在に至る。オイシックスドット大地社外取締役。

構成=内田まさみ

この記事は 「Forbes JAPAN 日本の起業家」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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