ビジネス

2018.12.27

社会をアップデートする「行為と言葉」のデザイン #NEXT_U30

デザインリサーチャー 木原共




ロッテルダムにてUBERの是非について問う 

──プレイフル・インターベンションとはなんですか?

プレイフル・インターベンションとは、遊びの切り口を通して社会問題に介入する実践です。この実践は遊戯思想の古典である「ホモ・ルーデンス」の著者、ヨハン・ホイジンガが提唱した「魔法円(magic circle)」の概念を拡張しています。ここでの魔法円とは、遊びが作り出す、日常と非日常を分離させる意味的な境界線を指します。

例えば、私が路上で人を殴ったら警察沙汰になりますよね。でもそれがボクシングのリング上であれば問題にならない。この場合、リングが意味的な境界線を作る魔法円の働きをしています。

魔法円は既存の社会のルールや関係性を上書きする性質を持っています。私はこの魔法円の性質を発生させるデザインに興味があり、ストリートディベートの取り組みにも応用しています。

ストリートディベートでは「物乞い」と「通行人」の関係性で固定されていた路上に、天秤型のツールを置くことで、新たな遊びを中心とした魔法円が立ち上がります。この魔法円の中では「物乞い」「通行人」という関係性ではなく、「ストリートディベーター」「参加者」という新たな関係性が生まれ、既存の社会的な規範が上書きされています。

新しい言葉を通して社会の規範をアップデートする

──人間の振る舞い、行動を変えるには何が一番効果的ですか?

社会の規範をアップデートするにはストリートディベーターのように、人工物を使った介入の方法もあります。しかしそれでは限定的なので、一番効果的なのは新しい「言葉」を使った介入をすることだと思っています。言葉は私たちの行為に一番大きな影響を与えるからです。

──言葉を、変える。

私たちが日常的に使って入る言葉も時代遅れな言葉が多いです。例えば、よく使われる「社会人」は一般的には社会で働いている人を指す言葉です。ただ、会社で働いていない専業主婦・主夫やフリーターの人は立派に社会に貢献しているのに「社会人」とみなされないことがあります。

生き方が多様化する今にふさわしい新しい言葉を考えてみると、実は多くの日本人が使う「社会人」という言葉は「会社人」で置き換えられることに気づきます。よく言われる「社会人としてのマナー」も「会社人としてのマナー」と言い換えられます。こう言い換えるだけで、全ての人に押し付けられがちな「社会人のマナー」も会社勤めの人にしか当てはまらないものが多いことに気づけます。

──本当ですね。

このような言葉遊びは「外人」や「人妻」という潜在的な差別意識を含んだ言葉の使用を考え直すきっかけともなります。例えば外人であれば「内人」、人妻であれば「人夫」という対となる言葉を問題提起として仮に使うことで、多くの人がその言葉の問題に気づくことができます。

英語は、どこかの国で新しい考え方をもった言葉ができると、すぐにアップデートされます。彼(He)と彼女(She)でもない、性別を特定しない代名詞である「Ze」の概念も比較的すぐ受け入れられました。日本語は日本でしか話されないため、いい意味でも悪い意味でも、昔の価値観が言葉に残り続けます。それが、今の社会に合わないと歪みが生じてしまいます。

世界を変える行為と言葉をデザインする

私は世界を変える行為をデザインし、それを表す言葉を広めることができると思っています。路上で議論をする職業に名前を与えた「ストリートディベーター」は、その一例です。このプロジェクトの最終目標はこの行為をオックスフォード辞書に載せることです。「ストリートディベーター:路上で議論して金銭を稼ぐ職業」みたいに。

──壮大な目標ですね。

そうですね(笑)。でも実現し、言葉がパブリックなものとして残れば、私以外の人がストリートディベートを広められるんです。

実際、ストリートディベートでは似たような現象が起こりました。プロジェクトが様々なメディアで取り上げられた後、ロンドンでストリートディベートをしている人がニュースで話題になったんです。私はそのストリートディベーターのことを全く知りませんでした。「ストリートディベート」という言葉が私を離れて一人歩きした象徴的な出来事でした。

新しい行為や考え方を表す言葉は世界に確実な変化をもたらします。数百年前に「人権」という言葉が誕生したからこそ、今の私たちがいます。他にも「リサイクル」など、新しい方向性を示した言葉は今も残っています。

新しい概念に紐づいた言葉が色んな人に共有されることで、社会のルールは上書きされていくのだと思います。これからも、そんなことを考えながら社会の規範をアップデートするような活動をしていきたいです。

きはら・とも◎1994年生まれ。デルフト工科大学院インタラクションデザイン研究科卒業。アムステルダムに拠点を置く公的なデザイン組織Waagにて社会変革を生み出すプロジェクトを国際的に手がけている。ものごいの代替行為をデザインするプロジェクト“Street Debater”が、『WIRED』の「CREATIVE HACK AWARD 2017」のグランプリを受賞。2019サン・ティエンヌ国際デザインビエンナーレ招待作家。

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