さて、バリ島のASFである。最終日には全メンバー一致で、『SDGsに関するバリ宣言』を採択した。曰く「アジア証券人フォーラムは、グローバルな資本市場で広範に実践される、SDGsに貢献するイニシアチブを歓迎・支持し、プラットフォームとしての機能を強化する」。
SDGsは、企業のCSRや社会貢献などと結果として重なる部分も多いが、その根本的な考え方は、事業活動自体がSDGsの実現を達成しうる仕組みになっている、という点にある。寄付など民間の好意に依存するものは、利益が減れば寄付も減るといった宿命にもある。
だが、事業そのものがSDGsと表裏をなすものであれば、利益水準に関係なく事業の遂行すなわちSDGsの具現化、を意味することになる。証券市場に関して言えば、市場が人類社会のエコシステムの一部にビルトインされている、という認識になる。
バリ島の波打ち際には、まっすぐ海に向かう子亀ばかりではなく、歩みが稚拙で迷走したり、打ち寄せる波でひっくり返されてしまう要領の悪いものもいた。見かねた何人かが、手を差し伸ばして波に乗せてあげる。
するとASFのメンバーの一人が呟いた。「放っておくのがいいんだ。ここまで助けてあげて、これから本番という時に自力自存できないようでは、海中に入った途端に天敵に食べられてしまう。残酷なようだが、本当のエコとはそういうものだ」。
金融資本市場も同じだろう。公平で透明な取引を確保するためには、性悪説にたった人為的な監視システムは不可欠だ。だが、それが行き過ぎると、市場の持つ有効性そのものの発展にブレーキが掛けられてしまう。
市場における規制と放任、安全と革新のバランスをどう取るべきなのか。SDGsと市場の在り方を、子亀たちが示唆しているような南洋の黄昏であった。
川村雄介◎1953年、神奈川県生まれ。大和証券入社、シンジケート部長などを経て長崎大学経済学部教授に。現職は大和総研副理事長。クールジャパン機構社外取締役、南開大学客員教授を兼務。政府審議会委員も多数兼任。『最新 証券市場』など著書多数。